この熱き人々

2013年11月22日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

奔放かつ大胆、時に型破りとも評されるその書は、膨大な時間を費やす古典の臨書に裏打ちされた、生の証だ。並外れた集中力と限界を突破する強靭な精神力で、まだだれも見たことがない書の新たな地平を切り開く戦いに挑む。

型を吸って心を吐く

 栃木県矢板市。道路沿いのプレハブ小屋。柿沼康二がここに籠(こも)るのは、作品の創作にとりかかっている時。しかも、今秋11月23日から約3か月間金沢21世紀美術館の大小7つの部屋2000平方メートルを使用する過去最大の個展の準備に取り組んでいる最中である。籠る時は外界を遮断し、精神を集中させて内的世界と徹底的に向き合い、全身全霊で作品を吐き出すと聞いている。その時間や空間に侵入し侵害するものを徹底的に排除する。それを承知で訪ねてきたとはいえ、戸の閉まったプレハブの前では引き返したい弱気と後悔が顔を出す。それらを振り切って戸を開けると、壁に飛び散る墨の跡が目に飛び込んできた。30畳ほどのプレハブ内でどんな格闘がこれまで重ねられてきたのか。尋常じゃない。視覚からドカンと普通が通用しない世界だと伝わったら、なぜかこちらの腹がすわった。

 と、そこに柿沼康二が立っていた。世の書家には極めて稀な金髪。が、しかし、何とその下に発見したのは穏やかな笑顔だった。驚きつつもほっとして足元を見ると、巨大な紡錘形の黒塗りの物体が。もしやこれは筆の一部なのではないか。そんな視線の先を察して柿沼が、紡錘形をひっくり返してくれる。中には小さな円形の枠がびっしり。このすべての枠に筆の穂を装着すると1本の巨大な筆になるのだ。それに墨を浸すと、重さは60キロを超えるという。その筆を自在にあやつってあの生命感、躍動感あふれる作品が生まれるのか……しかし、60キロを動かすことは果たして可能なのか?

 「普通では絶対無理です。これを使って書くことが目的であって、書きたいという強い思いがあるのでぶっ飛んでいる。だから持てる。でも体はぐちゃぐちゃになりますよ」

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