2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年10月24日

――いまあるコモディティに少しだけ「変態」的な価値を足すのではなく、日本的なコモディティをさらに徹底させるということでしょうか? それはちょっと意外な答えでした。

久松:世界市場に打って出るのであれば、狙うべきは中国の富裕層ではなく、コストコにもっと美味しい野菜を売り込むことなんですよ。栽培方法はもっと徹底的に合理化し、科学的なアプローチにも力を入れて品質を安定させ、秀品率を上げる。僕にはそんな資本もないし、最終的にお金を稼ぐことが目的じゃないからやらないけど、これはトヨタが普通にやってきたことですよね。

 大生産地と呼ばれるような地域でも、まだまだ質の均一化は徹底されていない印象があります。たとえばキャベツ1個あたりの生産コストを2~3円下げられれば、生産規模によってはそれだけで莫大な利益になる。ナショナルチェーンとの独占農場契約を目指すのもいいし、加工用野菜の市場でも、安価でもう少し質の良いものを欲しがっている業者はたくさんいます。「農家を守れ」と声をあげる前に、農家にできることはまだまだあるし、手つかずの市場もあると思うんですよね。

――その可能性は、さまざまな思い込みにあふれた農家観を少し更新するものかもしれませんね。

久松:ただ、それは僕のやりたいことじゃない。農薬を撒くのがなぜイヤかというと、スタッフに任せられないからなんです。そもそも農薬を撒きたい人はウチには来ません。そんな人たちに「仕事だからやれ」「安全だからやれ」と無理やり説き伏せてやらせてしまうと、彼らは目の輝きを失ってしまうでしょう。それは久松農園の野菜のクオリティに、ひいては存続に関わる。お金も経営感覚も絶対に必要だけど、やっぱり僕らのようなスタイルは「やっていて楽しい」が生命線なんですね。そこもまた、合理性だけでは語り得ないものなんだと思います。

久松達央さん(右から二人目)と久松農園のスタッフ

*関連記事:有機農家対談 「ぼくたちは『有機野菜』じゃなくて『おもしろい野菜』を作りたい」(全5回)

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