2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2013年10月28日

 有限責任制度の下では、損害賠償総額が、事業者の賠償措置額および相互扶助制度等による基金をさらに超える場合には、被害者救済は国による補償問題として扱われることになり、本提案では図3中の「原子力災害補償・地域再建法」が発動されることになる。大規模な原子力災害が生じた場合、国と事業者が協力して賠償に当たることとしたスイスの原子力損害賠償法が参考になろう。

コミュニティ崩壊への対応

 大規模な原子力災害では、損害の内容が、地理的・内容的・時間的に大きな広がりを持つ。そのうえ、地域コミュニティの再生、被災者の雇用問題等金銭賠償による救済が困難な損害が存在する。それゆえ、現行の原子力損害賠償法のように、個人対個人の不法行為法の延長線上で問題処理を図ろうとしても、その実効性確保に限界があることは明白だ。

 被害者(被災者)が膨大な数に上り、地理的な広がりも大きく、さらに時間的にも長期にわたると判断されるような事故の場合には、政府も、原子力損害賠償支援機構法による融資的な資金援助にとどまらず、今後の新たな原子力事業環境を構築する制度の中での事業者の自己規律づけの程度とバランスさせた形で、被害者補償・被災地復興の責務を負うことが重要なポイントになる。

 これを実現するためには、災害補償の上乗せ(事業者へのクレームをそのまま国が引き継ぎ、その処理を救済基金のようなファンドを有した組織が行う)部分と地域再建についての諸施策を、同じ法律の中に埋め込むことが極めて重要となる。

 原子力災害補償・地域再建法においては、国費による除染の事業実施はもとより、被災者の雇用確保のための企業誘致・起業についての産業政策的措置、地域インフラの再興に必要な公共事業の補助率かさ上げ、無料の継続的健康診断、風評被害等の経済的損害についての対策及びその予防措置等を盛り込むことが考えられる。

 昔のダム建設に当たっての地域コミュニティに対する補償方法も前例として参考になろう。福島復興に向けても、こうした要素を盛り込み、さらに世界恐慌時のニューディール政策で設立された米国TVAをモデルとした事業実施主体を検討してはどうだろうか。

 現在、こうした総合的な原子力問題解決案について、経団連21世紀政策研究所で政策提言をとりまとめており、11月中旬に発表する予定だ。より詳しい考察は、その報告書を参照していただきたい。

◆WEDGE2013年11月号より










 

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