科学で斬るスポーツ

2013年12月2日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

 2011年ドイツのワールドカップ優勝、昨年のロンドン五輪準優勝という輝かしい成績を残した「なでしこジャパン」。強さの秘密は個々の選手の能力の高さ、戦略的な作戦に加え、チームワークの良さがあったことを多くの識者が指摘している。ここでは、なでしこの強さの裏に、最新の脳科学に基づく実践、練習があったことを紹介したい。

 その核心に触れる前に、脳神経外科医で、脳科学者の日本大学の林成之(なりゆき)教授の話に触れたい。なでしこジャパンをはじめ、水泳、陸上、レスリングなど多くの競技のアスリートに影響を与えた、重要な仕掛け人だからだ。

本能を理解した勝負脳

林成之教授

 林教授は、「脳低温療法」という新しい治療法を開発したパイオニアだ。交通事故、脳卒中などで脳が障害を受けた時に、脳内は圧力が増し、脳血液の温度(体温ではない)が上がってしまう。39度が長く続くと変性が始まり、44度を超えると短時間で脳死に至る。これを防ぐため、脳を32~34度に冷やして、蘇生手術を行う手法だ。1990年代に確立した、この脳低温療法は、脳障害につきものの後遺症を最小限にし、多くの患者を救った。脳神経外科として多くの患者に向き合った林教授は、人間の「本能」「感情や判断を生み出す情報伝達ルート」に関する深い理解に至った。そして多くの科学的な成果を発表した。

 「患者が後遺症なしに社会に復帰する。最高のパフォーマンスを見せる。脳科学の視点は、肉体的に恵まれているアスリートにも通じるはずだ」と、長い間蓄積した知見をスポーツで試したいと思ったという。勝敗に影響を与える脳の癖、「勝負脳」の考え方を、多くの競技団体や選手の前で話したり、著書で解説したりした。

 世間の注目を集めたきっかけは、日本水泳連盟から「日本代表チームのパフォーマンスを上げてもらえないか」と依頼されたこと。林教授は、選手らの泳ぎを見て、残り10メートルのところで失速していることに気づく。

 そこで選手らに「途中でゴールを意識するとパフォーマンスが下がる。ゴールだと思わずに泳ぐよう」アドバイスした。

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