2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2013年12月30日

 ここまではいくつかの新聞が報じているが、現場はさらに委縮している。標準和名「オーストラリアイセエビ」や「アメリカイセエビ」は伊勢エビと同じイセエビ属。属も同じなら「イセエビ」と呼称しても良いのだが、JAS法やガイドラインでは産地も重視しているので、日本産をイメージさせる「伊勢エビ」は問題とも受け取れる。グレーなら黒として安全策を取ろうというのがいまの業界のムードだから、このあたりの類縁種は軒並み「ロブスター」という表記に変更されているという。

「牛肉」とは「一枚の生肉」

 牛肉についても業界の委縮は留まるところを知らない。成形肉や牛脂注入肉の公表が相次ぎ、いかにも人工物の粗悪品とのイメージで捉えられているが、こんな歴史がある。

 消費者庁発足前の05年11月、公正取引委員会は、ステーキチェーンのフォルクス(現・どん)に対し景品表示法違反で排除命令を出した。各紙は一斉に「内臓肉と脂肪を混ぜ合わせた成形肉をステーキと呼んだ」と書いたが、使われていたのはハラミ。決してステーキに向かない粗悪品を使ったわけではないが、当局は「一枚の生肉」でなければ「生鮮食品」の「肉類」にはならないと突き放した。成形肉と付記しなかったという一点において、「美味しいステーキを格安で」という同社の企業努力は否定されたのである。

 今回、多くのホテルで明るみになったのは、厚さをそろえるために、一枚のヒレ肉の尾の細い部分を折り返してたんぱく質の粉で結着させた、というような事例だ。手を加えれば一律、成形肉であるから、「ヒレステーキ(成形肉)」と表記しなければ優良誤認にあたるという判断はいかがなものだろうか。

 「サケ」も「イセエビ」も「牛肉」も危ないから発表してしまおう……。正義を振りかざすメディアを恐れ、次々と保守的な判断を下す企業が現れ、横並び意識で業界全体が過剰防衛に走る。この騒動は本当に消費者に便益をもたらすのだろうか。

 発端の阪急阪神ホテルズより前に、東京ディズニーリゾートのホテルとプリンスホテルで同様の「偽装」があったのに、なぜ大して騒がれなかったのかは定かではない。

◆WEDGE2014年1月号より










 

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