ワシントン駐在 政治部記者が見つめる“オバマの変革”

2009年5月1日

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飯塚恵子 (いいづか・けいこ)

読売新聞政治部次長
上智大学卒業後、読売新聞社入社。政治部記者として首相官邸、自民党、外務省、防衛庁などを担当。1998年から2000年まで那覇在住、03年から06年までロンドン特派員。

 米国内では、広島と長崎への原爆投下について「戦争を終結させ、結果的に多くの日本人の命を救った」と正当化する意見が根強い。2007年7月には、当時、政府の核不拡散担当特使だったロバート・ジョゼフ元国務次官が「さらに何百万人もの日本人の命を奪うところだった。(原爆投下によって)戦争を終結できたということは、大半の歴史家が同意すると思う」と記者会見で明言した。こうした見方は米国内で保守派を中心に支配的だ。つまり、大統領が日本に謝罪するような訪問は米国内ではほぼ受け入れられない、ということだ。

 一方、日本では同じ年の6月末、当時の久間防衛相が「悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理の中で、しょうがないと思っている」と発言したことが与野党や国民の反発を招き、3日後に辞任に追い込まれた。

 今、同盟国同士の日米間でこれほどくっきり相反する価値観は、それほど多くない。それは、この原爆投下の問題が、第二次大戦で日米が敵味方だった歴史をそのまま今現在のテーブルに引っ張り出してくるからだ。

 この二つの価値観のバランスを取るのは、そう簡単ではない。ある米民主党関係筋は「他の人間なら難しいが、オバマほど弁舌にたけ、世界で支持のあるアメリカ大統領なら、謝罪調にならずに実現できる」と語る。

 しかし、被爆地では今もなお、被爆の後遺症に苦しむ人がいる。原爆症の認定をめぐっては、今日も国を相手に多くの訴訟が続く。60年以上経て、被爆はまだ「歴史」になっていない。それがオバマ大統領が廃絶を目指す核兵器の恐ろしさだ。

 大統領の核廃絶方針表明によって、「唯一の被爆国」で「最優等生」の日本は今後、米政権内で存在感を増すことになるかもしれない。それはとりもなおさず、戦後日米関係の最も深淵な源を掘り返すことにもつながる。

 オバマ大統領はこの現実に向き合う勇気を見せるだろうか。実現すれば、大統領はこれまでの日本とのなじみの薄さを一気に飛び越え、日米関係の歴史に深く刻まれる存在となる。日本も、それだけの覚悟で迎えねばならない。

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