2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年1月27日

 それどころか、中国を勇気づけた例の「失望声明」を出してからまもなく、米国政府の態度は徐々に日本にとって有利な方向へと変わっていったのである。

 その変わり目は、12月30日に行われた米国務省のハーフ副報道官の記者会見である。ハーフ副報道官は、安倍首相の靖国参拝直後に米大使館が「失望する」と声明を出したことに関して、それは靖国参拝そのものに対してではなく、日本と近隣諸国との関係悪化に対する懸念であると述べた。彼女はさらに、「日本は同盟国であり、緊密な連携相手だ。それは変わらないだろう」と語り、日米関係に変化はないとの考えを示した。

 ハーフ副報道官のこの発言は実に重要な意味を持つものである。それはまず、米国政府の表明した「失望」は決して靖国参拝そのものに対する批判ではないと明確にすることで、中国政府の行う靖国参拝批判と一線を画した。米国政府が中国の靖国批判に同調しないことの意思表明でもある。その上でハーフ副報道官はさらに、「日本との同盟関係に変わりがない」と強調して、日米の離間を図る中国を牽制した。

 同日、王外相は対日包囲網構築のために多数の国々の外相に「電話協議」攻勢を仕掛けていたことから考えれば、ハーフ副報道官による上述の態度表明は、中国の危うい動きを察知しての措置であるとも理解できよう。そしてそれは結果的に、中国の企みを挫折させる大きな力となったのだが、その一部終始は後述に委ねることとする。

米国の本音を読み間違えた中国

 ここではまず、米国の本音に対する中国政府の大いなる誤読があったことを指摘しておこう。

 なるほど、安倍首相の靖国参拝直後に、米国政府は確かに大使館を通して「失望した」という前代未聞の声明を出して、安倍首相の行動を批判した。しかしそれは決して、中国に同調するような批判でもなければ、中国に日米同盟の離間を図るチャンスを与えるような批判でもない。まさしくハーフ副報道官の指摘した通り、それは単に、日本と中国・韓国などの近隣諸国との関係悪化を憂慮しての懸念表明であって、それ以上でもそれ以下でもないのである。

 そして米国は一体なぜ、日本との近隣諸国との関係悪化を憂慮しなければならないのかというと、それこそ日本国内外の多くの有識者たちが指摘しているように、山積する国内問題やシリア問題への対応で精一杯のオバマ政権は今、東アジアで緊張が高まり衝突が起きるような事態を何よりも恐れているからである。つまり、東アジアの安定を望むその思いこそ、米国政府の日本に対する「失望声明」の根底にあるものであろう。

 しかしよく考えてみれば、まさにこの思いと同じ理由から、オバマ政権は決して、日本との関係悪化も望まないはずである。というのも、もし両国関係が悪化して日米同盟が動揺してしまうような事態となれば、それこそがアジア地域の安定を脅かす最大の不安要素となるからだ。


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