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過去は引きずったっていい
悩んだ先に光が差すから

テノール歌手 新垣 勉


何でも揃っている人と、
障害があって家族もいない自分。
こんな不公平はない。

 もっと恵まれた境遇だったら。あの失敗さえなかったら。誰しも、自分の過去のどこかに暗がりを残し、引きずりながら生きている。それは時に、前に進めぬ自分の言い訳となり、殻を破らずに予防線を張る原因となってしまう。

 テノール歌手の新垣勉が負った宿命は、とてつもなく苛烈なものだった。沖縄駐留の米軍兵を父とし、地元の女性を母として生まれた新垣は、生後すぐに不慮の事故により失明。そして当時の沖縄の通信事情も背景にあろうが1歳の時に帰米した父は音信不通となり、母は自分の母に新垣を預けて再婚。新垣は祖母を「お母さん」と呼んで育つが、中学生の時に真実を知り、まもなく祖母も世を去り天涯孤独になった。

新垣 勉 (あらがき・つとむ) 1952年生まれ。幼くして失明。両親の離婚により祖母の下で育つ。牧師の傍ら音楽活動を続け、49歳の時CD『さとうきび畑』でデビュー。今夏にビクターエンターテイメントより、ニューアルバムを発売予定。写真・田渕睦深
 

 すべて自分には咎のないこと。新垣は、父を捜し出して殺してやると叫び、自分を残して再婚した母を恨み、自らの障害を呪った。己の過去に縛られ、迷い苦しみ、なかなか未来へと足を踏み出すことができなかった新垣は今、その歌声で人々の心に明かりを灯す。いかにして葛藤を越え、自分自身を受け入れ、そして自分の殻を破ったのか。

 「中学生の初め頃、近所のおばさんに『お前がいつも「お母さん」と呼んでいるのは、実はおばあちゃん。時々訪ねてくる「お姉さん」がお母さんなんだよ』と教えられました。『つらいこともあるだろうが、周囲をあっと言わせる人間になりなさい』と、励ます意味で言ってくれたんですが、見返してやろうという気持ちと、自分の運命を呪う気持ちと、複雑でした」

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