サイバー戦争時代の「抑止力」


世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察するコラム。

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米ブルッキングス研究所のPeter W.Singer上席研究員とジョージワシントン大学サイバーセキュリティ政策研究所客員研究員のAllan Friedmanが、サイバー攻撃の危険にさらされていると考える国にとって、サイバー攻撃者の特定は戦略的な優先課題であり、サイバー攻撃に関しても、抑止の目的が敵の考えを変えさせることであることには変わりない、とArmed Forces Journal に1月9日付で掲載された論説で述べています。

 すなわち、抑止というと冷戦時代の相互確証破壊が想起されるが、抑止とは敵方の費用対効果の計算を変えることによって、敵方の行動を変える能力のことである。それは、受け入れがたい反撃を惹起するとの、信頼できる脅しによってもたらされる心の状態であり、主観的、心理的な評価である。

 敵方の決定は、大量報復に加え、防御によっても影響される。いわゆる「拒否による抑止」である。もし攻撃によって得たいものが得られないなら、そもそも攻撃はしないだろう。

 従来の抑止とサイバー分野での抑止の主要な違いの一つは、抑止、報復の相手が「誰か」という問題である。戦車やミサイル発射器は隠せないが、サイバー攻撃に使われるネットワークは特定しがたい。

 その上、サイバー攻撃に使われたコンピューター、それの直接的操作者を特定するだけでなく、戦略的には、敵方の計算を変えるためには、その背後で誰が政治的な責任者であるかを知らなければならない。

 サイバー攻撃の危険にさらされていると考える国にとって、サイバー攻撃者の特定は、戦略的な優先課題である。

 サイバー攻撃の抑止では攻撃者の特定だけではなく、攻撃の状況も重要である。米国は、相手がテロリストか、ならず者国家か、主要国かによって全く異なる抑止を考える。たとえば2007年のエストニアに対するサイバー攻撃がロシアでなく、イランによって行われたものであったなら、米国の反応はまったく異なっていたであろう。

 サイバー攻撃者が特定できた場合、次の課題はいかなる種類の、どの程度の報復をするかである。サイバー攻撃が知的所有権に関するものであったり、スパイ行為である場合には、同種の報復は意味がない。さる専門家は、そのような場合には、制裁、関税、多国的外交圧力などにより、敵方のサイバー攻撃の経済的コストを高め、攻撃の費用対効果の分析に影響を与えるべきである、と言っている。

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