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2009年5月12日

 つらく苦しかったことも、もらった愛情も、過去をすべて自分のものだと受け止めたことが新垣の声の色となっている。歌に限らず、言葉や振る舞いには、すべて発する人の色が付く。それが受け手の心に届くのだろう。

 「サトウキビを友達と畑で隠れてかじった時の甘さ、工場で煮詰める時の香り、亜熱帯の風の音。体の中に、ぜんぶ思い出されます」

 大ヒットした『さとうきび畑』を歌う時、何をイメージしているのかを尋ねたら、内面からにじみ出るような穏やかな笑顔とともに、こう返ってきた。その甘さや香りや葉音は、過去を恨む時代の新垣に注がれた愛情を思い出させるのかもしれない。

 過去があってこそ自分は自分。でも、腹の底からそう思うのはむずかしい。過去も含めて自分を丸ごと受け入れるためには、過去を引きずりながら悩む時間、自分の内側への対話とともに、あるがままでいいと自信をつけてくれる人が必要だ。「そんな存在になっていきたい。まだまだ、なれていないけど」と新垣は言うが、『さとうきび畑』を聴くと、そんなことはないと思う。(文中敬称略)

◆「WEDGE」2009年5月号より

 

 

 
 

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