2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2009年5月20日

 (1)労働力として役立たせる、(2)受入れの総量規制を行う、(3)一定期間で帰国させる、といった両者の言い分を満たす原則が設けられ、こうした日本のご都合主義への国際的な非難をかわすために、(4)一人前にして帰国させる、という項目も付け加えられたとされる。

 この「本音と建前」の乖離からさまざまな問題が生じている。08年に法務省が「不正行為」と認定した受入れ機関は452に上り、その92%が2次受入れ機関(企業)によるものだ。8時30分から17時の研修と謳っていたものが実際は17時から翌朝4時だった。他社から研修生の名義を借りて、自社で働かせる。時間外労働の時給はたった200円――等々、実に酷い。しかもこれらは、氷山の一角に過ぎない。研修生側が通報しなければ明るみにならないからだ。

 外国人研修生権利ネットワークの鳥井一平氏が「労働法規が適用されない研修期間は不正の温床になりやすい」と指摘するように、今回の入管法改正では、研修の実務期間から労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令を適用するよう制度変更が図られている。しかし、不正は撲滅されないだろう。不正の98%は団体管理型の受入れ機関によるものだが、即席で作られた事業協同組合などでは、労働関係法令を熟知していない場合も多い。

 法務省は今回の制度改正で、受入れ団体の指導・監督の強化を謳うが、形式的なものにとどまり、不正摘発要員の増強など本当に必要な対策には踏み込んでいない。一方で研修・実習期間は当初の2年から3年に延長され、さらに5年への延長を要望する声が高まっている。チェック機能が強化されないまま、制度活用、門戸開放だけはずるずると進んでいるのが現状だ。

現場任せの看護・介護EPA

 「ここまで現場に丸投げだとは思わなかった」(介護施設・病院関係者)。EPA締結をきっかけに外国人介護士・看護師候補生を受入れた現場からは、こんな悲鳴があがっている。国からの情報提供や指導といったサポートが全くといっていいほど無いことに、戸惑いが広がる。

 例えば、ある受入れ病院の担当者は、1年間の教育プログラムを立てるために、インドネシアの看護技術の水準を調べようと考え、厚生労働省や日本側のあっせん機関、国際厚生事業団(JICWEL)に対して問い合わせをしたが「全く知らない」という回答だったという。国側が情報をろくに収集せずに、外国人の受入れ経験ゼロの現場に丸投げしてしまっている。

 そして受入れのハードルを高くしているのが資格試験の難しさだ。千葉・柏たなか病院では、受入れた候補生たちの医療知識を確かめるために、日本の看護師国家試験を英語に訳し、実際に解いてもらった。すると、社会保障制度など日本特有の問題を除けば、ほとんどが8割以上の合格点を満たした。「試験問題にルビをふるだけでも合格率が違う。日本語を全て覚える必要はない。実際の職場でも書類にルビをふったりすれば、十分理解できる。国は、本気で候補生を合格させようとしているのか疑問だ」と千葉・柏たなか病院の加田理恵・理事長補佐は言う。


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