Wedge REPORT

2014年4月14日

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杉山大志 (すぎやま・たいし)

IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者

1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入所。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者を経て、現職。(一財)電力中央研究所上席研究員。

 最後に言及されているIETとは、先進国の間で割り当てられた排出枠を売買する制度である。これは当初、国がそのような取引をすると想定して創られた制度であるが、ほとんど取引はおこなわれなかった。ロシアなど旧ソ連諸国の排出枠が大量に余っていて、それを買うことに道徳的な抵抗があったことなどが理由である。排出量取引では国もコスト最小化を目指して取引するものと想定されていたが、実際には、国はコストさえ低ければよいというプレーヤーではなく、道徳的に正当化できるかどうかという点でその取引活動が強く制約されるという点が見落とされていた。これらのことは、本文13章で指摘されている。

EUのETS
低価格の4つの要因

 排出量取引制度としてはEUで実施されたETSが最も大がかりなものであったが、これについても、IPCCは「意図されたほどに成功しなかった」という言い方で、手厳しい評価をしている。その低価格の要因については、「構造的なものであり、対処することは政治的に難しいことが証明された」としている:

……排出量取引制度は、排出枠が緩かったり、拘束力がなかったりしたために、期間中の排出削減の効果は限定的だった(「政策決定者向け要約」より)

……ETSは意図されたほどに成功しなかった。ETSは国境を越えたキャップアンドトレードが機能しうることを示したものの、近年の恒久的な低価格は、追加的な排出削減についてのインセンティブを与えることがなかった。……2013年末の執筆時点において、過剰な排出枠を取り除くことを通じてこの低価格の問題に対処することは、政治的に難しいことが証明されている

EU ETSの予想外の低価格は、構造的要因による可能性が高い。文献で議論された4つの構造要因は、(Ⅰ)金融・経済危機、(Ⅱ)CDMクレジットの流入、(Ⅲ)新エネルギーや省エネルギーなどの他の政策の影響、及び(Ⅳ)規制の不確実性と長期信頼性の欠如である。

これら4要因がどの程度EUA(訳注:排出枠)価格に寄与したか、その相対的なシェアを定量的に分析した研究はない。だが、これらの要因のどの1つを欠いても、より高い炭素価格につながったであろうという意味で、一定の役割を果たしたようである。…… (14章要約より)

排出量取引制度は、政治的に実施可能にするために、排出削減の効果を犠牲にする形で実施された(技術的要約及び14章より)

 同報告書では、この低価格の問題に対処するために当局がとったさまざまな手段や、学界からの提案についても詳しく言及している。しかし、さまざまな方法は考案できるものの、排出枠を厳しく設定しなおすことには政治的な困難がつきまとうという現実が突き付けられた。

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