オトナの教養 週末の一冊

2014年4月25日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

眠りはただの脳の活動低下ではない

 記憶や忘却、あるいは技能の習得と眠りとの関係についても、少しずつ謎解きがされてきた。

 ドイツ・リューベック大学の研究チームは、隠れた法則性に気づけば容易に解ける設問をつくった。この設問に夜、一生懸命取り組んだ後、よく眠り、翌朝再挑戦すると、多くの人が法則性に気づいた。しかし、眠らずに再挑戦した場合や、朝練習して夜に再挑戦した場合は法則性に気づけなかった。

 つまり、重要な気づきや発見には、努力にもまして睡眠が必要というわけだ。

 スポーツ、楽器、タイピングなどの技能習得や、図形パターンの識別といった手続き記憶の習得においても、睡眠をとった後のほうが成績は上がるらしい。ハーバード大学の研究チームは、新しい技法を身につけるには、覚えた日に6~8時間眠ることが欠かせないという研究結果を発表した。

 「眠っている間に、何かのプロセスが働いて技能や記憶の獲得向上を支えている。眠りはただの脳の活動低下ではないのだ」と、著者は考察する。

 一方、ストレスを感じている時、眠ってしまいたいと寝床に入ってもなかなか眠れない。実はこれは、人間に太古から備わった心身の危機管理機構が働くから。自然の変化や天敵の接近などを警戒するために目を覚まして起きている仕組みなのである。それが現代では、ストレスによる不眠は休息を妨げるものとして、治療すべき症状と考えられてきた。

 しかし、国立精神・神経医療研究センターの研究チームは、大きなストレスにさらされた時、眠れなくなることの意味について興味深い発見をした。

 昼間、交通事故映像を見てもらい、その夜、半数の人は十分眠り、半数は徹夜をした。すると、徹夜組は眠った組に比べ、ショッキングな体験を思い出した時によみがえる恐怖感や発汗といった生理的ストレス反応が和らぐことがわかった。

 よく似た不快な体験で恐怖感やストレス反応を誘発する実験でも、徹夜組では反応が誘発されにくかった。

 <睡眠には、日中の体験に伴う記憶や日中に練習した技能を定着する働きがある。ショッキングな出来事に遭遇した晩によく眠ると、これが必要以上に強く心に植えつけられてしまう可能性がある。危機的な出来事に続いて起こるストレス性の不眠は、状況に対する警戒という意味だけでなく、不快な記憶の定着を妨げ、ショッキングな出来事の生活に対する悪影響を防ぐ作用を持つのかもしれない。>

 なるほど、眠りには実に深い意味があるものだ。春の眠りをむさぼりつつ、そんなふうに思いをめぐらすのもまた一興である。


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