2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年4月30日

米国との衝突は避けたい中国

 一部のマスコミはさらに、オバマ大統領がTPP交渉における日本側の譲歩を安倍政権から引き出すために、あるいは日本側の譲歩の交換条件として「尖閣の安保適用」を持ち出した、との見方も示しているが、それは事実に沿わない。大統領訪日中のTPP交渉において双方の合意に達することができなかったにもかかわらず、「尖閣の安保適用」を盛り込んだ共同声明は予定通りに発表された。尖閣防衛に関わる米国政府の決意を単なるTPP交渉のための「交換条件」とするような見方は、あまりにも浅薄なものであろう。

 もちろん、米国大統領が「尖閣の安保適用」を明言したとしても、あるいはそれを共同声明に入れたとしても、いざ尖閣が有事となったとき、日米安保条約に基づいて米軍が必ず出動してくるという100%の保証があるわけではない。実際有事になってみなければ、米軍の出方が読み切れないという見方には一理あろう。

 しかしここで重要なポイントは、「米軍の出方が読み切れない」というのは、尖閣諸島に攻撃を仕かけてくる側の中国も同じ、という点である。後述する「新型大国関係」という中国の持ち出したキャッチフレーズからも分かるように、今の中国は米国との棲み分けを考えていても、米国という超大国との正面衝突は避けたいし、米軍とぶつかる覚悟はそもそもできていない。

 少なくとも現時点では、圧倒的な軍事力を持つ米軍と戦えば中国軍が負けてしまう可能性が大であり、いったん対外戦争に敗北すれば、共産党政権の一党独裁体制が安泰であるはずもない。習近平たちにとって、米軍と正面衝突することのリスクはあまりにも大きい。

 したがって、米国の出方を読みきれない限り、中国は尖閣諸島に軍事攻撃を仕掛けることはそう簡単にできない。米軍が出動してくる可能性がたとえ数%でもあるならば彼らはためらうだろう。だとすれば、前述のオバマ大統領の「尖閣の安保適用」発言とそれを盛り込んだ日米共同声明は、中国の習近平政権に対して大変な抑止力となっていることがよく分かるであろう。米国大統領のこの「安保適用明言」と日米両国の国家的公約としての共同声明の発表によって、尖閣有事に対する米軍出動の可能性が一段と高まったことは、誰も否定できない事実であろう。

 そして、おそらく当事者として中国の習政権はこの「安保適用明言」の重みを誰よりも重く受け止めているだろう。冷静に考えてみれば、この「安保適用明言」を米国政府の世界に対する「公約」でもある日米共同声明に盛り込んだことで、中国軍の尖閣攻撃に対する米軍出動の可能性はもはや数%程度のものではない。そうなると、習近平政権は尖閣に対する軍事的攻撃をもはや断念する以外にない。米軍が介入する可能性を分かっている中で、彼らにそんなことができるわけがない。


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