ヒットメーカーの舞台裏

2014年7月2日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 開発がスタートしたのは11年の初め。国内外で人気が定着していた「ジェットストリーム」のシリーズ強化の一環として「高級品」の検討が始まった。ここでジェットストリームに触れておかねばならない。06年に発売された油性ボールペンで、滑らかな書き心地や、にじみにくい速乾性などが高く評価され、同社の主力商品となっている。欧米のほかアジア諸国などにも投入され、100万本がヒットの目安とされるなか、年間1億本売れている。「プライム」が登場するまでの価格帯は150円~1000円だった。

 設計から量産化に至る開発を担ったのは横浜研究開発センターの中村祐介(33歳)。最初に構想したのは「回転繰り出し式」による3色タイプだった。中村によると「繰り出し式はノックやそのための溝が不要なので、デザインの自由度が高い」のだ。部品点数も多く、もともと高級タイプに採用されてきた。だが、中村は「高質な塗装やデザインだけでなく新しい価値も加えたい」と考えていた。かつてノック式での新機構を考案したことがあり、プライムの開発を機に「何としても商品化したい」との想いを強めていた。商品企画やデザインの担当者も加わった検討の結果、12年秋には繰り出し式はシャーペンも付加した多機能の3&1とし、新機構を採用する3色ノック式の商品化も決まった。

 中村がこだわったノック式の新機構とは、多色タイプでノックボタンを押し下げた場合、ボタンが本体に沈み込まないようにするものだ。普及品のノック式多色ペンでは、ボタンが本体中心部に向かって動くため、沈み込んでしまう。指で押す際にボタンが滑りやすいといった多少の難点がある。中村が今回、プライムのノック式で実現した機構はノックボタンが本体から突出したままの状態でスライドし、沈み込まない。操作しやすく、多色ペンでもスリムにできるというデザイン上の利点もある。

 ポイントとなるのは中村が「回転カム」と名付けた普及品にはない部品で、ノックボタンの動きを保持するなどの機能をもつ。機構が複雑になる分、部品点数は計31点と、従来の3色ペンに比べて2倍に増えた。分解した部品を見せてもらうと、ミリ単位以下のコイルバネなど微細なものが多く、パーツの加工だけでなく組み立ての難しさも伝わってくる。

高級車のドアを意識したノックボタン

 中村は設計の段階でノックボタンを押さえる時の力加減など、感性領域にもこだわった。使用後にノックボタンが元に戻る時の音は「高級車のドアを閉めた時の重厚な余韻などもイメージしながら」、個々の部品の形状や材質などを決めていった。量産に向けた最終段階で最も手間取ったのは塗装だった。店頭で最初に消費者が評価する質感の要素でもある。本体は3&1が上下2分割、ノック式は3分割されており、しかもそれぞれ素材が異なる。たとえばノック式は樹脂と2種類の金属で構成されており、色や輝きなど同一の塗装品質を異なる素材上で確保するのは、中村には経験のないことだった。従来は3、4回の試作で終わっていたが、今回は1色につき20回余りの試験を重ね、微調整した。

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