2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2014年6月3日

定年後に絶たれる社縁
自分らしい生き方の模索

 50代が宗教化に向かう。そこに特徴的な傾向があるとすれば、その背景は何か。個別例は様々だが、層としてまず現在の50代は団塊から遅れて来た世代、と特徴付けられる。団塊の世代は自他共に認めるパイオニア精神で何事も自己決定を重視した。社会に対しても積極的で「大きな物語」を持っていたが、合理主義で総じて反宗教的だ。対して現50代は、多感な青春時代に社会状況が、その後に経済が閉塞する時代を生き、夢破れ、社会より個人・家庭志向という「小さな物語」世代の始まりとも見える。

 日本人は、特定の教派にとらわれずに「宗教をたしなむ」国民性といえる。NHKも参加する国際比較調査グループ(ISSP)のデータ(2008年)では「宗教を信仰している」は、特に男性で10~40代までは17~19%なのに対し、50代ではいきなり41%に跳ね上がる。しかし、伝統仏教界は縮小傾向だ。積極的に社会に関わる僧侶らもいるが、マンネリ化した葬儀など、全般的には宗教というより「習俗」化しており、多くの人は、知識として仏教を勉強することはあっても観光以外で寺院に近づくことは少ない。

 戦後から高度成長期に伸びた新宗教は、「貧病争」という「苦」からの救いという現世利益と団体への家族的帰属意識が入信動機の中心だった。しかし、社会の変化で「貧病争」自体が相対的に後退し、現にある巨大新宗教教団の関係者は「家の宗教という信者が大部分で、新規の個人入信はほとんどない」という。これに対して「新新宗教時代」と言われる近年は「仲間」や「癒し」、つまり個人の孤独感の治癒、社会からの孤立・疎外感という「苦」からの救いが目的の中心になっている。

 オウム真理教もそうだった。筆者が1990年前後にオウムの集会を取材した際、当時の20~30代が目立った。彼らは現在の50代だ。統計数理研究所の「日本人の国民性調査」データでは、63年以降数次の調査による各年齢層の宗教意識の変遷が分かる。「信仰あり」は、現70代が10年前から減少傾向なのに、現50代は20年前、10年前と比較して増加を続けている。

 帰属意識は、まさに現代の問題だ。「無縁社会」とは、地域崩壊や核家族から「お一人さま」への縮小、経済格差などによって、地縁、血縁、社縁が切れた状態。50代、特にサラリーマンにとって、最後にかろうじて残った擬制としての「社縁」も、いずれ退職すれば絶たれ、家庭内でも孤立が待っている。そこに、新たな縁を求めて宗教に向かう背景もある。しかし、述べたように「教団宗教」は退潮傾向。むしろ人間としての生き方の支えを「宗教的なもの」に求める傾向が強い。

 「企業戦士」たちが、ふと立ち止まって、生き方を考えている。中にはイスラム教に本格入信した人もいる。


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