2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年6月4日

 主張を明確にすることにより、台湾は、他の領有権主張国と国際社会に対して、台湾が南シナ海に重要な利害関係を有していること、そして、紛争の管理において建設的プレイヤーとなる用意があることを示すことが出来る。台湾が主張を国際法に沿ったものにするならば、ASEAN加盟国にも歓迎されるであろう。台湾の前向きなアプローチへの対応として、ASEANは、南シナ海の行動規範を策定するための中国との議論に、台湾を含めることを支持するかもしれない。

 最も重要なことは、台湾の行動が、中国に対しても、中華民国から引き継いだ9点線に基づく主張の内容を明確にするよう、圧力をかけることになるであろう、ということである。仮に、中国が台湾にならって、その主張を海洋法条約に沿うように明確化すれば、次の議論は、主張が重なる領域をどう管理するかということになり、地域における平和と安定は飛躍的に高まり得る。

 南シナ海における領有権主張国として、そして、法を遵守する国家として、台湾は、東アジアにおける海洋紛争の管理、解決への平和的な道のりを示す機会を持っている、と論じています。

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 この論説の提言は、馬英九政権がかつて提唱した「東シナ海平和イニシアティブ」と類似の効果を南シナ海でも期待できるのではないか、との想定の上に立っています。確かに、対話を通じる紛争の平和的解決という「東アジア平和イニシアティブ」の背景にある考え方については、特にこれに反対すべき理由はありません。しかし、南シナ海については、台湾(中華民国)が1947年に打ち出した9点線の解釈変更を現段階で求めることは現実的であるとは思えません。

 その理由は、第1に、台湾の南シナ海への領有権主張は蒋介石政権が中国大陸を統治していた頃の主張であるとは言え、台湾は領土・主権については、今日でもなお、当時の主張を基本的に継承しています。これに手を付けることは、ひいては「一つの中国」とはどこまでを意味するのかという台湾(中華民国)存立の根本問題にまで影響する難問となるでしょう。

 第2に、ASEAN側から見ると、台湾の主張は、たとえ若干の解釈変更が可能であるとしても、基本的には中国の主張と変わらないということになるでしょう。ASEAN側から見れば、そのような台湾の関与は意味がないばかりか、むしろ有害です。


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