2024年4月24日(水)

解体 ロシア外交

2014年6月26日

 だが、実際の支払いが7億8600万ドルしかなされなかったため、6月12日にロシアは16日の午後10時までに19.51億ドルが支払わなければウクライナ向けガス輸出を停止すると通告し、支払いがなされなかったため、その通告は実行されたのだった。今後は、ウクライナとのガス取引は完全に「前払い制」となり、ロシアは支払われた額の分だけ、天然ガスを供給するという形になる。欧米諸国からは「ロシアが再び資源を外交の武器として使った」との批判が上がっている。

 また、ロシアは昨年12月にヤヌコーヴィチ大統領と約束した天然ガス代金を1/3値下げし、268ドル/1000㎥を取り下げ、4月1日に485.5ドル/1000㎥にすると通告した経緯があり、ガス価格を巡っても、ウクライナとロシアは対立を続けている。その後、ロシアは3者協議で妥協案として385.5ドル/1000㎥を、ウクライナも譲歩額として327ドル/1000㎥を提示したが、結局折り合わず、価格交渉は決裂したのだった。なお、ロシアが欧州各国対するガス輸出価格は、平均377.5ドル/1000㎥である。

 だが、まだウクライナは強気だ。備蓄の天然ガスがあり、(大量の燃料が必要となる極寒の)冬はまだ遠いとしているのだ。そして、ウクライナのプロダン・エネルギー相は6月16日に、「ロシアからのガス供給はウクライナ向け分がゼロになった」が、自国経由で欧州へ送られる分は欧州に送り続けると表明した。欧州やウクライナは、冬になる前に交渉を続け、何とか妥協点を見出したいところだが、問題が冬に持ち越された場合、2006、2009年のウクライナ・ロシアガス紛争の時のように、欧州諸国へのガス供給にも影響が出る可能性は否めないため、欧州も必死だ。

 またウクライナ側は、天然ガスをパイプラインに逆送させることによる欧州諸国からの天然ガス輸入(リバース・ガス輸入)でもガスを賄うとも主張しており、実際に、ポーランドとハンガリーとは契約済みで、今後、スロバキアとも契約予定だという。しかし、それらの量では不足することは間違いなく、またそもそもそれらの国々がロシアから天然ガスを輸入していることを考えても、この策が持続的な解決策だとは考えにくい。

 ガス不足で辛い思いをするのは国民である。ポロシェンコも国内の混乱、経済状況の悪化など極めて厳しい状況にあるが、国民のためにもまずは確実にエネルギーを確保できるような現実的な解決方法を見出すべきだろう。

まだまだ課題山積

 このようにポロシェンコは就任から内政、外交に努力をしてきた。拙稿「混乱深まるウクライナ」で書いたように、東部の問題も、東部の親露派が政府が提案した停戦を受け入れたことで、状況が安定してくるかと思いきや、24日、東部ドネツク州スラビャンスク郊外で政権部隊が乗ったヘリコプターが撃墜され、9人が死亡したのをはじめ停戦は守られていない。そのため、ポロシェンコ大統領も親露派から攻撃を受けた場合は「躊躇なく反撃」するよう命じ、停戦期間を予定よりも早く終了させる可能性も示唆した。

 その一方で、同じ24日、ロシアのプーチン大統領が上院に与えられたウクライナへの派兵権限を取り消すよう要請、軍事介入をしない姿勢を明確にすると同時に、ウクライナ政府の和平案に呼応する形で、ウクライナ政府、東部親露派の双方に対話を呼びかけた。このことにより、危惧されていたロシアの介入の可能性は極めて小さくなったと言ってよく、これはポロシェンコにとって大きな好材料となるはずだ。

 このようにウクライナ情勢は毎日大きく変動しており、一進一退を繰り返している。そのため、短期的な未来ですら展望を描くことは極めて困難であるが、現実的な妥協案を見出すことで平和的解決がなされるよう、国際社会も多面的な支援をしていくべきだろう。

【6月24日脱稿】

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