2024年4月25日(木)

中国メディアは何を報じているか

2014年7月4日

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【解説】

 この論評に違和感を持つ日本の読者は少なくなかろう。奇妙な議論の展開に戸惑う日本の読者もいるかもしれない。サッカーの強さに国の大小、貧富、国連常任理事国の是非、先進国か発展途上国かという違いに関係はないはずだが、そうした要素を列挙して「大国」なのになぜW杯出場を果たせないのか、と悔しさを述べ立てる様は奇異に映るだろう。

 しかし、それにしても中国人サッカーファンの歯ぎしりが聞こえるようではないか。「嫦娥は宇宙に行き、蛟竜は深海に潜っているのになぜ小さなボールさえ蹴れないのか」というくだりには失笑を禁じ得ない。なぜならまさにこれこそ中国の「大国病」を体現するような言い方だからである。

 かつて秦の始皇帝は膨大な費用をかけて万里の長城を築いて国の財政を傾けたとされるが、まさに今日の中国政府も同じように空母「遼寧」や三峡ダムという費用対効果が極めて疑わしい大規模プロジェクトを華々しく打ち上げる一方で、きれいな水や空気さえも手に入れるのが困難という、笑うに笑えない状況を生じさせている。正にこれは「大国主義」による弊害だ。崩壊したソ連の二の舞は避けるべきだ、と言って宣伝や治安維持、軍事の強化を図るが、民衆を置き去りにして「大国」としての軍事力やメンツを維持しようとすることこそが、ソ連の共産主義体制崩壊の根本的原因だったと理解してほしいものだ。

 本文はW杯を巡る一つの考え方を示すものに過ぎないが、同時に自国の民族や国の在り方についての考え方も如実に示しており、中国がとりつかれた「大国病」の深刻さを窺わせる。国威発揚のための空母建造より、子供たちなど国民に健康被害をもたらすような大気汚染を解決する方がずっと大事であり、空気清浄機を作る方がよっぽど意義がある。たかがサッカーされどサッカーなら、たかがコスタリカ、されどコスタリカ、たかが空気清浄器、されど空気清浄機である。大艦巨砲主義の時代はとっくに去ったのである。

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