この熱き人々

2014年9月11日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

歌舞伎の力を信じて進む

 20年目のコクーン歌舞伎は、コクーン3度目の「三人吉三」で、七之助はお嬢吉三を演じた。歴史を重ねるとしだいに予定調和的な安心の中に埋没しそうになる流れを、若手の役者でどれだけ切り崩して、観客の心にどんな波を立てられるか。歌舞伎は「傾(かぶ)く」という言葉からきたという通説がある。混沌としたもの。ぞくぞくするもの。決まった方向などないもの。前回の「三人吉三」は、和尚吉三、お嬢吉三、お坊吉三が、勘三郎、福助、橋之助。今回は、勘九郎、七之助、松也と一気に世代交代した。

 演出家の串田は「自由に表現してみてと言うと七之助君は誰よりもイキイキする。いろいろなアイデアも次々と出てくる。でも、誰かが出したアイデアがより面白いと思うと、さっと自分を引っ込める。若いと突っ張って引くことはできないものだけれど、それができる。受ける印象より、内に秘めたものは過激なんじゃないかな」と、七之助の柔軟さと面白さを求める姿勢に期待を寄せていた。

 6月のコクーン歌舞伎に続いて、7月は平成中村座のニューヨーク公演。平成中村座も、父が残したもう1つの大きな財産である。ある日、仮設の小屋ができ、芝居がやってきて、やがて小屋は跡形もなく消える。芝居の前後もまた芝居めいて、そのすべてのざわめきや興奮が人の記憶に残る。芝居小屋は日本を越えて、世界にも興奮を巻き起こし、今年でニューヨーク公演は3回目。リンカーンセンターのローズシアターで7月7日から12日まで8公演、演目は「怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)」だ。

 「父もいないし串田さんも行かない初めてのニューヨーク。それが一番不安でした。兄と獅童さんと力を合わせて工夫しながら転換も早変わりもつくっていくしかない。寂しいとか不安とか言ってたら怒られます。外国で歌舞伎の力を感じてもらえたらうれしいです」

 父がいないコクーン歌舞伎、串田も来ない平成中村座という2つの大きな経験をした七之助には、兄の勘九郎と北海道から九州まで全国14カ所を回る今年で10年目を迎えた錦秋特別公演が待っている。一段と成長した姿が期待される。

(写真:岡本隆史)

中村七之助(なかむら・しちのすけ)
1983年、東京都生まれ。87年、「門出二人桃太郎」で二代目中村七之助として初舞台を踏む。以来、多くの舞台で立役、女形を務め、ドラマ、映画でも活躍。
公演情報 ●中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演10周年記念 9月2日~20日 全国14カ所

◆「ひととき」2014年8月号より

 

 

 

 

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