2024年4月20日(土)

都会に根を張る一店舗主義

2014年8月13日

 とまあ、以上は、前田さんが、『古月』の師匠、山中一男氏との共著で、雑誌『圓卓』に連載した“食養生ノート”からの受け売りだ。肝臓を害すれば、ウコンの成分を抽出して飲むというのではなく、中医学では、あくまでもバランスを調節する食べ合わせを重視する。では、これらの関係をつなぎ、調節するものは何かというと、運動や機能を司り、陽に当る気と、以下は陰である血、体液全体を指す水、成長や生殖を司る精だという。同連載には、こう書かれている。

台湾や国内から仕入れる中国茶を丁寧に解説しながら淹れてくれる。

 「各臓器の機能である気がその役割を果たすためには、陽(=気 著者注)にたいして、陰が必要になってくる。つまり、『血水精』である。人体を車に例えるならば、『陽』である各臓器の機能は『エンジン』、『陰』である血水精は『ガソリン』『オイル』ということになろうか」

 さらに五行は、春、夏、長夏(土用)、秋、冬という季節にも呼応し、これを目安に養生食のメニューが組立られる。

 ところが、それらを熟知した上で前田さんは、敢えて言う。

 「陰陽五行を持ちだすことで、中医というものが西洋医学と違って科学ではなく、思想的、哲学的なものというイメージを持たれるという側面もあると思うんです。でも僕は、中医はビックデータだと思う。飲んで効いたものは残す、これを4000年、積み重ねてきたりっぱな科学だと」

 これには深く共感、指圧や針も同じで壮大な権力と悠久の時をかけた統計学的なデータの集積だと、私も思う。

上野の本店『古月』の山中師匠との運命の出会い

 新宿御苑の『古月』は、2007年11月、上野で1990年に開店した薬膳中華『古月』の支店として出発。本店の料理長、山中一男は、独学で中国の薬膳を紐解き始めた人だ。

 2011年、前田さんが、当時、日本で3人めだった高級栄養薬膳師の資格は、中華中医薬学会の認証、山中師匠は、その栄養薬膳薬学分会の理事も務める。資格を得るには10年の調理場での経験と2本の論文が必要で、前田さんは貝原益軒の『養生訓』と日本の粗食文化について書いた。

 そんな前田さんは、新潟の農家に生まれ、料理上手な祖母や母に育てられ、中学生の頃にはすでに料理人を志向。だが、父親に説得されて進学した。大学では人文科で中国文学を専攻、古典を読む基礎を積んだ。


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