2024年4月20日(土)

都会に根を張る一店舗主義

2014年8月13日

 とはいえ、大学出でいきなり飲食業を目指すのは無理があると、大阪の辻料理学校で一年学ぶ。「驚いたのは、東京の辻調理学校には中華料理を学ぶカリキュラムがなかったですね。今もそうですが、そのくらい中華は人気がないですね」

 そして卒業も近い頃、求人の棚で、不思議な中国語の論文を目にした。これを書いたのが、後の師匠、山中一男氏だった。

上野「古月」にて。旅館の木造建築をそのまま生かした店舗。個室はどの部屋も少しづつデザインが違う。

 「師匠も面白い人で、青山学院の中国思想史なんですよ。その頃から実家の旅館をつかって店をやろうと決めていたそうです」

 上野『古月』は、山中氏の実家旧「山中旅館」の木造建築をそのまま生かしたユニークな店だった。前田さんは、当初、戸惑いながら面接に出かけたこの店で、結局13年修行した。

 「妻ともあの店で出会ったんです。彼女も調理師ですよ。中国語も話せない時に師匠の紹介で、上海の点心の老舗で一月働いた経験もあった。でも当時、女性を雇ってくれる店は、『古月』くらいだったそうです」

 その後、『古月』の支店として始めた新宿御苑店を任されるようになり、2012年、二人の結婚を機にのれん分けという形で独立を認めてくれた。

 ちなみに上野『古月』は、すべて個室で、予約すれば、すっぽんやフカヒレ尽くしの贅沢なコースも堪能できる。

物静かで謙虚ながら、なかなかの革新派

 それにしても、なぜ日本人は、イタリアやフランスには憧れても、長年、影響を受けてきた隣国、中華や韓国にもっと学ぼうとしないのだろう。

 「思うに日本の中華料理には、エビチリやホイコーローといった料理が定番化している。でも、実際には中国は広大で、多民族国家です。地方料理の多様性も無限ですよね。そういう意味でも薬膳を掲げているのは好都合なんです。四川のマーラー豆腐と上海の卵料理を出しても問題ない。中国各地の料理に跨れますから」


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