魚が増える福島が学ぶべき
“東シナ海の悲劇”


勝川俊雄 (かつかわ・としお)  東京海洋大学准教授

1995年東京大学農学部水産学科卒。97年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2002年同大学大学院農学生命科学研究科博士号取得(論文博士)。三重大学生物資源学部准教授等を経て15年4月より現職。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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福島で魚の資源量が増加している。かつて東シナ海でも、一度減少した資源が戻ったことがあったが、再び乱獲を行い、海は枯れた。この教訓を活かせば、福島の漁業は日本のトップランナーになれる。

 福島県では、東日本大震災に伴う原発事故以降、沿岸漁業および底引き網漁業が操業を自粛している。漁業再開に向け、2012年6月から試験操業が行われている。参加している底引き漁業者の話によると、福島県の魚の資源量が急増し、「震災前は2時間網を引かないと獲れなかった量の魚が、今では30分で獲れる」そうである。「震災前には、自分の代で漁業は終わりだと思っていたが、今の資源状態なら、燃油が高くても十分に経営が成り立つ」という漁業者もいる。

 福島県水産試験場の山田学研究員らは、試験操業のデータを解析し、資源量の指標となるCPUE(1時間網を引いたときに獲れる魚の重量)が大幅に増えていることを明らかにした。マダラのCPUEは、震災前の10倍に増加しているし、その他の魚種も総じて増加しており、商業対象種全体のCPUEは震災前の3倍に増加していた。

 朗報だが、このまま本格的に操業が再開されたなら、元の木阿弥ではないだろうか。福島と同じように不可抗力の禁漁で一時的に資源が回復した事例として、東シナ海の底引き網漁業を紹介しよう。

 東シナ海は、かつては豊穣の海であった。1908年に英国から汽船トロールという効率的な漁法が日本に導入されると、東シナ海漁場の開発が急激に進んだ。レンコダイ、マダイといった高級鮮魚は、瞬く間に獲り尽くされ、漁獲の中心は、ニベやグチのような練り製品の原料となる安い魚に移っていったが、これらの資源も急激に悪化していった。

 41年に太平洋戦争が始まると、漁船は軍に徴用され、東シナ海の漁獲はほぼ停止した。戦争が終わって、47年から漁業が再開されたときには、水産資源は回復をしていた。2回目のチャンスが与えられたにも関わらず、戦前と同じ失敗を繰り返してしまった。

(EPA=JIJI)
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著者

勝川俊雄(かつかわ・としお)

東京海洋大学准教授

1995年東京大学農学部水産学科卒。97年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2002年同大学大学院農学生命科学研究科博士号取得(論文博士)。三重大学生物資源学部准教授等を経て15年4月より現職。

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