2024年4月24日(水)

メディアから読むロシア

2014年7月25日

対米牽制としての「カード」

 だが、記事中でイワショフ総裁の発言として触れたように、ロシアは近く北極の防衛を一括して担当する北極コマンドを創設する計画である上、プーチン大統領が述べるように、その隷下には北極海での運用を考慮した新型艦艇やインフラが整備される計画だ。地上においても北極での戦闘を専門とする「北極旅団」を配備する計画であるほか、2012年以降、水上艦艇による北極海の航行訓練や空挺部隊の降下訓練を実施している。

 また、ロシア軍は2013年、ソ連時代の軍用飛行場の運用を順次再開した。北極海東部のノヴォシビルスク諸島では輸送機などの展開が可能となったことに加え、北極海西部のノーヴァヤ・ゼムリャー島(核実験場があることで知られる)ではMiG-31迎撃戦闘機の常駐を開始すると共に、Tu-95MS戦略爆撃機の前方展開拠点も再開する計画だ。

 全体として見れば、北極の軍事化を急いでいるのは、どちらかといえばロシアの方であろう。

 したがって、ロシアが言う北極に対する脅威や防衛強化は、軍をはじめとする対米強硬派が自らの主張を裏付ける道具として用いている、という側面は否定できまい。しかも、近年ではシリア問題やミサイル防衛を巡って米露関係が先鋭化し、2014年にはウクライナ危機によってその傾向が決定的となった。こうした中で対米強硬派の発言権はさらに大きくなっていると想像されるし、プーチン政権としても対米牽制上、北極における軍事力はカードの1つとなっているのだろう。

 また、対米強硬派が近年、盛んに口にしているのが、「形を変えた侵略」という概念だ。ロシアは旧ソ連諸国における「カラー革命」や中東・北アフリカにおける「アラブの春」、そして2014年2月のウクライナ政変を「西側によって焚き付けられた人為的な政変」と見ている。

 北極について言えば、翻訳記事中で触れたようにロシアの主張する資源や航路が「国際公共財」ということにされて独占的地位を奪われたり、あるいは環境団体を西側が支援してロシアの資源開発を妨害するかもしれない、といった言説がロシアではまま見られる。仮に直接的な軍事侵略の危険性はなくとも、北極への「形を変えた侵略」を抑止するため、軍事力を含めた多様なプレゼンスが必要なのだ、というロジックも考えられそうだ。イワショフ将軍は2008年の論文において、これを「戦略的抑止力」と呼び、その概念は2012年にプーチン首相[当時]が発表した国防政策論文にも継承された。さらに最近では国防省主催の国際会議において、ショイグ国防相以下の国防省幹部がこぞって西側の「形を変えた侵略」を非難する演説を行ったことも注目される。


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