2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年7月29日

 安倍氏は、日本が、フィリピンのような小国が、中国に対して、領土に関する利益を守るのを助け得る、と示唆しているようである。それは、フィリピンやベトナムにとっては慰めとなろうが、中国に対しては刺激となる。日本がより正常な防衛態勢をとろうとする権利を否定するのは困難である。しかし、我々が、それを祝福しなければならないという意味ではない、と述べています。

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 ピリングという人は、従来とも英国風の戦勝国史観を捨てず、過去の日本を悪と考え、日本の悔悟の念の不足を指摘して来た人物です。それは、この論説の中で、ドナルド・キーンを引用して、憲法第九条を「日本の栄光」と呼んでいる所からも分かります。

 この論説は、結局は集団的自衛権の行使を悪いとは言っていませんが、戦勝国史観の立場から、種々留保を示しています。「安倍内閣のナショナリスティックな言辞には嫌悪感を持つが、今回の決定により普通の国に一歩近づいただけなのであろう」と言い、また「日本が普通の防衛姿勢を持つことを心配すべきだろうか? 日本が今までその権利を拒否されて来たのは、ドイツに較べても、日本が特に悔悟の念が薄かったからであろう。中韓はそう思っている。ただ、戦後日本は米国の核の傘の下で、平和的だったという歴史はある」などと、持って回った言い方をしています。そして、結論として、「日本が普通の国の国防姿勢を持つことを否定するわけにはいかないが、これを祝賀しなければならないと言うことではない」と結んでいます。

 国際政治の評論家としては、日本の集団的自衛権の行使に反対しようもありませんが、安倍内閣のナショナリスティックな傾向に精一杯の嫌悪感を表明している、いささか感情的な論説です。裏を返せば、今回の解釈変更には論理的に正当な文句をつけようがないことの証左と言えるかもしれません。

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