食の安全 常識・非常識

2014年8月11日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 中国政府も、国内向けの食品と輸出向けの食品は区別し、差をつけています。この5、6年、対日輸出食品については、中国政府が原料生産から加工製造工程までの監督管理を行い、輸出前検査も行っています。対日輸出原料の生産業者、製造・加工業者については、中国政府への登録が必要です。

 中国の一般市民の衛生レベルが日本よりかなり悪いのは事実でしょう。日本がこの30年、40年でどれほど衛生観念が向上したか? コンプライアンスを重視するようになったか? そんなことを考えれば、日本の数十年を3倍、5倍のスピードで追いつこうとしている国にやっぱり無理が生じているのは理解できます。

 そんな国であっても、日本向け食品を生産してもらわなければいけない。中国の工場に日本人を常時駐在させている企業も多く、大勢の日本人関係者が中国各地にいます。彼らは、中国語を必死にマスターして、厳しく指導することもあるし、従業員宿舎の充実や親睦のためのカラオケ大会、スポーツ大会など、他にはないきめ細かな福利厚生を整備する努力もしています。一カ所に勤め続けるのではなく、よりよい条件を提示されるとすぐに転職してしまうのが中国の慣習。ぼやきながらも、中国側の経営陣や従業員などと心を通わせる努力を続け、良い人材をつなぎ止め働いてもらうべく奔走しているのです。

 ただし、その努力が実り100%安全、問題なし、と言い切れるようにはならないのが、世の習いです。とくに、化成品や機械製造とは異なり、食品製造は人の手が多く入りますので、ミスも起きる、不届きな企業や従業員もいる、というのが現実です。でも、それは日本も同じ。だって昨年末、冷凍食品に農薬を混入させる事件があったばかりではありませんか!

 上海福喜食品というアメリカ資本の企業が、どのような経営をしていたのか。しっかりとしたマニュアルはあったでしょう。しかし、マニュアルを守り使いこなすのは人、です。とくに、恩義と体面を重んじる中国人を、アメリカ側はどう扱っていたのか? 中国の経営陣や従業員と信頼関係を構築する努力をしていたのか? そして、日本マクドナルドやファミリーマートは、どう付き合っていたのか? 詳細はまだわからず、両者共に具体的な説明をしていません。

日本の食卓は中国抜きには成り立たない

 日本の工場より衛生管理レベルは上、という工場も中国には数多くあります。実際に、私も何度も見てきました。広い施設に新しい設備。元気な働き手もいっぱい、というのが、印象的でした。日本の工場は高度成長期に建てられ30年、40年が過ぎて老朽化し、現在の食品の低価格志向でもはや設備投資する余力もない、というところも目立つのです。それに、働いている人たちの年齢も高い。食品加工は日本では、生産性の高い若い労働力を引き付けられません。

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