2024年4月19日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年8月15日

 しかし、である。「歴史的転換」は、それまでと同じ表面的な粉飾でしかなかった。それまでも、白字でスローガンを書いた赤い横断幕を掲げたその前で陸上戦闘訓練を行っている写真などが報道されている。また、浮上した潜水艦から発射された魚雷が水面を跳ねていく写真が報道されたこともある。訓練としては全く意味のない行為だが、ただ単に、訓練していることをアピールするために、滑稽な写真を報道することになったのだ。

 胡錦濤の指示を受けた各部隊は、こぞって、いかに実戦的な訓練をしたかをアピールしようとしたが、これも滑稽な訓練の様子を呈することになってしまった。いや、この時は滑稽では済まなかった。「実戦的」をアピールするために、けが人が出るとは思えない訓練でも、けが人を続出させたのだ。

 結果として、胡錦濤は、「訓練は、実戦的でなければならないが、安全でもなければならない」と、指示を出し直さざるを得なくなった。笑い話にもならない。人民解放軍では、訓練の質と安全を両立させることを「双赢(二つの勝利―Win-Winの意)」とも呼んだ。そして、2008年7月に「人民解放軍安全条例」が発布されるに至ったのである。

 結局、胡錦濤は江沢民の影響から逃れることはできなかった。中央軍事委員会副主席の座には、依然、徐才厚が居座り、江沢民の影響力が残っていることを厳然と示していた。胡錦濤が軍内に影響力を及ぼすことは難しかったのである。

「訓練の実戦化」をやり直す習近平

 2014年3月21日、人民解放軍総参謀部は、中央軍事委員会が示した「軍事訓練の実戦化の水準を高めることに関する意見」を徹底させるため、「强军必兴训 实战先实训(訓練をしっかりしてこそ強軍になる。実際に戦うためには先に実戦的な訓練が必要である)」と通知を出した。胡錦濤が掲げた「强军必须兴训治训务必从严(厳しい訓練を実施してこそ強軍になる)」というスローガンと、同じ表現である。

 これは、習主席が進めようとすることが、胡錦濤が進めようとしたことと同様であるということを意味している。胡錦濤が達成できなかった「訓練の実戦化」をやり直すという意味なのである。


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