2024年4月20日(土)

科学で斬るスポーツ

2014年8月21日

幼少期からの投げすぎが一因にも

 一方で、馬見塚さんや、筑波大の川村卓准教授(同大野球部監督、スポーツ科学)らは、「ジュニア時代からの投げ過ぎなどが今回の肘障害の背景にある」との見方を提示する。田中投手は中学時代にキャッチャーからピッチャーへ転向し、特に肩や肘を傷めたとの報告はなし。しかし、キャッチャーやピッチャーは、ジュニアではともに肘などの故障がダントツに多いポジションだ。

 馬見塚さんは、「精密なMRI検査をすると、ジュニア時代に繰り返す軽微な肘痛の裏には内側側副靭帯の異常があることが多い。田中投手の場合、肘の障害のきっかけはジュニア時代の障害があったのではないかなど、過去にさかのぼって考える必要がある。これにメジャーでの慣れない環境、中4日登板などによって、疲労が十分に取れない中で、投球数の多さも重なって症状がでた可能性はある」とみる。

図11 野球で肘痛を発症した大学生の過去の既往歴との関係(参照:『「野球医学」の教科書』)
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 馬見塚さんによれば、大学生で肘の痛みを訴える人の86%はジュニアや高校時代などに肘痛の既往歴があった。大学生になって初めて発症するのは2%に過ぎなかった。発症しやすさは、過去に傷めたことのある人の方が既往歴のない人に比べ25倍も大きいことになる。

 「つまり、大学生からの障害対策では遅い。もっと小さい時からの障害予防の取り組みが欠かせない。成人と同じような、勝利至上の野球は障害の要因になるだけだ。なぜなら、ジュニアと成人では骨や靭帯の発達が違うからだ。肘の場合、子どもは軟骨が多く、耐久性はない。指導法が異なることを指導者は知らなくてはならないが、まだそこまでいっていない」と語る。

図12 子ども(10歳、左)と成人(27歳、右)の肘のMRI画像。緑色の矢印は軟骨を指す。青色の矢印は靭帯を指す。子どもは骨が発達せず、軟骨が極めて多い(参照:「別冊整形外科No.64」(南江堂))。
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