2024年4月21日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2014年8月28日

――創造論から日系アメリカ人まで、幅広いテーマのミュージアムを取り上げていますが、共通点はありますか?

矢口:本書で取り上げた様々なミュージアムをすべて合わせて、現在のアメリカの形が少しずつ浮き彫りになればいいなと考えました。現在のアメリカではキリスト教に基づく倫理の感覚が非常に強く、その感覚とアメリカ的な正義で物事を捉えるとアメリカ社会がもう少し理解しやすくなるのではないかということです。

 たとえば、本書でも取り上げた「全米原子力実験ミュージアム」には、核爆弾を炸裂させるコーナーがあります。そこでは、大きな声でカウントダウンしてボタンを押します。日本人の私達からすると驚くべき展示ですが、アメリカの人の「正義」の枠組みの中で、核兵器の実験や核兵器ボタンを押すことを理解しようとする大真面目な展示なのです。そういったアメリカの感覚がありますね。

――取り上げられたミュージアムの中でも、特にカリフォルニア州サインディエゴにある「創造と地球の歴史のミュージアム」(以下、創造論ミュージアム)に興味を惹かれました。日本では進化論が主流で、アメリカのように神がいかにしてこの世を創造したかが描かれている旧約聖書の「創世記」に基づく創造論を支持する人は少ないと思います。

矢口:創造論ミュージアムは、アメリカにいくつかあります。その点だけでも、創造論がアメリカで根強く信仰されていることがわかると思います。

 もちろん現在のアメリカでも、大学などの高等教育では、進化論がベースになっています。しかしながら、日本やヨーロッパよりも創造論に対する信仰が強いのが実情で、本人が創造論者と思っていなくても、「神が世界の始まりに何らかの形で関わっている」と考える人は非常に多いですね。

――それは住んでいる地域が保守的かどうかにかかわらずでしょうか?

矢口:やはりバイブルベルトと呼ばれるキリスト教原理主義が強い中西部や南部の非都市圏の保守的な地域へ行けば行くほど、その傾向は強いと思います。ただ、カルフォルニア州のような圧倒的に民主党が強く、リベラル色が強い、また教育レベルも高い都市にも創造論ミュージアムがあるのは見逃せない点ですね。人里離れた超保守的な地盤だけでなく、サンディエゴのような都市にもこうしたものを支える層がいるというのは面白いと思います。


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