2024年4月20日(土)

ちょっと寄り道うまいもの

2009年6月25日

 その泉さんに、『美味求真』の一節を見せると、彼も唸った。まさにその通り、自分が長い時間をかけて理解してきたことを、大正時代にすでに分かっていたとは、と。

 特に驚きつつ激しく同意したのが、旬というべき時期が土用から3週間という話。苔が梅雨の激しい雨による流れで一新され、その後の陽光によって新しく育つ。それをたっぷりと食べて香りを身につけ、なおかつ産卵の準備に入る前の短い時期こそが旬なのである。

 泉さんが釣り人らから仕入れるのも、まさにその時期のもの。そのまま店で供するし、謙次郎の時代にはなかった冷凍の技術で、通年、食べられるようにする。

 それにしても、本当に川によってそれほど違うものなのか。そういえば、『美味求真』では泉屋の近くにある長良川の評価は高くない。都市部に近く、鵜飼いで知名度が高いが、さほどのレベルではないと断じている。

 試しに、と泉さんが焼いてくれたのが、郡上・長良川とそのすぐ近くながら、水系が違うという和良(わら)川のもの。前者も香り高く、十分に美味しい天然鮎ながら、後者は格が違った。香気というか、高貴とさえ感じる香り、そして、身の凝縮感。ただただ、うまい。絶句の美味。

 ただし、長良川でも捕れる場所によっては、とんでもないものもあるとか。今までの最高と思えるものも、長良川産だったとも。

 思うに、苔の育ち具合がよい場所も、温暖化で、謙次郎の時代とは変わってきている。かつてはなかった放流もされている。治水工事によっても状況は変わっている。変わらぬもあり、変わった部分もある、ということか。

 備長炭での炭火焼き以外にも、例えば塩辛であるウルカも素晴らしい。熟(な)れ寿しも、おそらくはフナズシはダメという諸兄姉でも素直に美味しく感じるはずだ。そして、極めつけは気軽に食べられるラーメン。


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