オトナの教養 週末の一冊

2014年9月5日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 自らも経験があるのだが、企業のことを記事に書く時には、ついつい無味乾燥な記述に陥りがちだ。気をつけないと決算数字の羅列と、同じような表現を多用してしまうことになる。本書で印象的なのは、日立という巨大企業をあたかも生き物のようにとらえ、2009年3月期の連結最終赤字が7873億円というどん底からはい上がった復活劇を主に6人の男たちの姿を通して描き切ったことだ。日立を船にたとえると、沈みそうになる大型船のブリッジ(船橋)に急きょ集められた6人の男たちが知恵の限りを尽くして船体を立て直し、急速にかじを切ってターン・アラウンド(復活)させる姿がドラマのように描き出される。深い取材に裏打ちされてこそ表現できる躍動感がリアルに伝わってくる。

企業の隆盛も、衰退も、リーダー次第

 2009年秋、公募増資への理解を求めて海外投資家に説明行脚に出た「海外ロードショー」の様子が紹介される場面などでは、復活の足がかりを必死につかもうとする関係者の苦労がにじみ出ている。低迷する業績や企業としての努力不足に罵詈雑言を浴びせ、時にはどう喝まがいに叱責する海外投資家。彼らを相手に丁寧に説明を尽くす社長以下、日立の役員たち。プライドが高いとされる日立の関係者にしてみれば、シビア過ぎる体験だったはずだ。しかしこの経験を単に屈辱的な体験ととらえずに、日立がその後の社内カンパニーの改革などにつながる動きを生むことにつなげて行ったことには敬意すら覚えるほどだ。

 あらためて思うのは、企業が隆盛するのも、衰退するのも結局はそれを率いるリーダー次第、ということだ。著者が〈日立の“周縁”から集まった六人の異端児たち〉と表現した6人の男たちは、企業論理的に冷徹に表現すれば社長レースなどから「外れた」と思われていた人である。しかし、これまた冷徹に言えば、本来社長として舵をとった人が十分な成果を上げられなかったために危機に陥り、そこからの脱出を外にいる人材に頼むしかなかった。そこで、69歳でグループ会社の会長に転出していた川村隆氏を社長として呼び戻した。

 こんな事態は、年次や序列、伝統を重んじる日立のような日本的な企業ではこれまで考えられなかったことだ。こうした非常手段をとらなければならないほど日立は追い込まれていたともいえるし、一度は社長という職に縁のなかった者が、その後社長として危機に陥った会社を堂々、復活させたという意味では、人材に恵まれた日立の底力がぎりぎり残っていたとみることもできるかもしれない。

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