安保激変

2014年9月16日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

オバマ大統領の演説が意味するもの

 このような中、9月10日夜、オバマ大統領は国民に対して米国の対イスラム国家戦略について直接訴えるため、テレビ演説を行った。この演説の中でオバマ大統領は「米国はイスラム国を破壊する」と明言、そのための戦略として(1)テロリストに対する空爆の継続、(2)(クルド系イラク人やイラク政府、シリアの反アサド勢力など)現地の勢力に対する軍事援助の提供、(3)(資金凍結や人の流れを止めるなどの)対テロ措置の継続的な強化、(4)人道支援の継続、の4点を挙げた。この流れの中で新たに475人の米軍人を軍事顧問として追加的に派遣することも表明した。特に、空爆については「米国民や施設に対する脅威に対しては断固たる措置を取るというのが私の大統領としての原則」と述べ、「そのためにはシリア国内のテロリストや関連施設を空爆の対象にすることも躊躇しない」と言い切った。

 しかしその一方で、今回の米軍による関与の拡大がブッシュ政権時代のイラクへの軍事介入とは異なる性質のものであることを必死にアピールしようとしている様子も窺えた。上記の戦略すべてを「対テロ(counter-terrorism)活動」と称し、軍事行動そのものは空爆や情報収集・提供などの任務に限定され、地上軍が前線で戦闘任務に就くものではないことを何度も強調した。また「米国は決定的な違いをもたらすことができる」としながらも「イラクが本来自ら行うべきことをイラクのために代わってやることはできない。またアラブ地域の諸国に代わってこの地域の安全を確保することもできない」とも述べ、米国による活動の拡充が効果を上げるか否かは、アラブ諸国の自助努力にかかっていることを示唆しようとした。

 無理もない。2008年にイラク・アフガニスタン両地域における米軍の軍事行動を終結させ、米軍を撤退させることを選挙公約に掲げて大統領選挙を戦い当選、外交・安全保障政策上の自分の最大のレガシーは両地域からの米軍撤退になるはずだったオバマ大統領が、よりによって、長期戦を覚悟しなければならないことを承知の上で再びイラクに米軍を関与させる決定を下さざるを得なくなってしまったのだ。「戦争を終わらせた大統領」として任期を終えるはずだった自分が、「新しい戦いの口火を切った大統領」になってしまった。オバマ大統領は忸怩たる思いだろう。

 それでも、10日夜のオバマ大統領による演説は、少なくとも当面の間、オバマ大統領をはじめ、政権で外交・安全保障を中核となって担う主要な人間にとっての外交・安全保障政策上の最優先課題が再び中東になったことを明確に示している。「軍事作戦」ではなく「対テロ対抗措置」であろうと、地上軍を派遣していなかろうと、米国が再びイラク情勢に軍事力を以て関与し始めることに変わりはない。しかも今回は、イラクとシリアの国境の無法地帯で一定の勢力を確立することに成功してしまったイスラム国という過激派テロ集団が相手だ。

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