中国メディアは何を報じているか

2014年10月3日

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佐々木智弘 (ささき・のりひろ)

防衛大学校人文社会科学群国際関係学科准教授

1994年慶應義塾大学大学院前期博士課程修了。日本貿易振興機構アジア経済研究所東アジア研究グループ長を経て、2014年2月から現職。共著に『習近平政権の中国』(アジア経済研究所)、『現代中国政治外交の原点』(慶應義塾大学出版会)。

 このタイミングでの習近平の選挙、投票発言は、香港での抗議活動に対するメッセージのように思われる。

 『人民日報』はこうした香港での抗議活動を報じていない。そのような中での習近平の発言には、行政長官選挙への投票は香港住民の権利として実施されるもので、香港でも民主形式は維持されること、香港の将来は選挙だけで決められるものではないこと、抗議活動で騒ぐことは選挙を前にした今だけの形式主義にすぎないことなどの含意を読み取ることができる。

習近平の「一国二制度」の危機への焦り

 しかし、こうしたメッセージは香港の抗議行動を沈静化させることにはならない。むしろエスカレートさせるだろう。

 それでも習近平自身がこれまで発してこなかった選挙、投票にあえて言及したことは、香港での抗議活動に対する危機感の表れといえるだろう。

 この香港での抗議行動が問いかけていることは,中国共産党が「一国二制度」を遵守するかどうかである。そしてその成り行きは台湾統一と深く関係している。

 9月26日、習近平が台湾統一団体連合訪問団と会見した際、「一国二制度」について言及したことは偶然ではない。習近平は次のように発言している(記事は『人民日報』2014年9月27日に掲載 http://cpc.people.com.cn/n/2014/0927/c64094-25746175.html)。

「『平和統一、一国二制度』がわれわれの台湾問題解決の基本方針であり、われわれはこれが国家統一実現の最もよい方式だと思っている。われわれは最大の誠意をもって、できる限りの最大の努力で平和統一の見込みを勝ち取る。なぜならば平和の方式で統一を実現することが台湾同胞を含む中華民族の全体の利益に最も符合しているからである」

「台湾での『一国二制度』の具体的な実現形式は台湾の現実の情況を十分考慮し、両岸各界の意見や建議を十分吸収することが、台湾同胞の利益を十分に配慮するための措置である」

 台湾が受け入れていない「一国二制度」について習近平が言及する必然性はなく、このタイミングで言及したのも香港での抗議行動と無縁ではないだろう。台湾にとっては香港での抗議は「一国二制度」に対する原則的なスタンスに影響を与えるものではないだろう。しかし習近平から見れば、香港での抗議行動のエスカレートが「一国二制度」のさらなる形骸化を台湾に印象づけることを避けたいのである。

 習近平が形式としての選挙や投票の権利行使に言及したこと、さらに台湾からの訪問団に対し彼らが受け入れていない「一国二制度」に言及することは、香港の抗議行動への対応としては決して得策ではない。習氏の対応には焦りすら感じられ、習氏が強い危機感を抱いていることが分かる。

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