【緊急特集】エボラ出血熱

エボラ出血熱 水際作戦の徹底を放棄した米国
エボラ特集第3弾

村中璃子 (むらなか・りこ)  医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

【緊急特集】エボラ出血熱

(画像:iStock)

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パンデミックは「国防の問題」

 そもそもアメリカが初動から軍隊を派遣するのは、パンデミック(世界的大流行)を想定しているから。アメリカの要請を受けた日本も、その趣旨に同意して自衛隊を派遣することになったと言ってよい。エボラが日本に上陸してアウトブレイクし、日本がパンデミック(世界的大流行)の一端を担う事態が起きた場合、事態収拾の中心となるのは自衛隊だ。

 パンデミックは最悪の場合、医療従事者の感染が相次ぎ、増加する患者に対応しきれなくなって、医療施設も足りなくなる事態に至る。感染していな人は、食糧や水、生活必需品を準備して、自宅に籠城することを求められる。患者の治療は、近頃テレビで盛んに紹介されている、厳重管理のエボラ対応室どころか、学校の体育館や公民館などで対応することにもなりうる。その時、エボラは地震や原発事故、戦争のように、もはや医療の問題ではなく、治安の問題となる。軍隊の派遣には、現在のアフリカでは「パンデミック」という最悪の未来図がすでにローカルに実現されており、実働部隊がそれを具体的に思い描くことができるようにするためという意味も込められている。

 世界はこれまでも、パンデミックの問題は、各国の厚労省が担当すべき医療の問題ではなく、防衛省をはじめとする各省庁が連携すべき「国防の問題」として準備されてきた。次にパンデミックを起こすのもインフルエンザだと誰もが思っていた。それが、現実には、アフリカローカルの病気だったエボラ出血熱がおかしな動きを見せている。軍隊派遣は、各国が「エボラ出血熱パンデミック」も視野に入れた検討を開始し、国防の問題として重くとらえ始めていることを意味する。

 アメリカに同調し、エボラへの人的な国際協力をする以上、不幸にも感染する日本人が出てくる可能性は高まる。アフリカから治療のために搬送されるのであれ、潜伏期の患者が検疫を潜り抜けるのであれ、最初のエボラ患者が日本に入ってくる前に鎖国体制をとらない限り、日本政府がエボラと直接対峙しなければならない状況は訪れる可能性がある。そうなれば、日本にも、今の欧米諸国が受けているのと同様の、アウトブレイク封じ込めの試練が訪れることだろう。

 8月には西アフリカのローカルなアウトブレイクと高をくくっていたエボラが、数か月のうちに先進国に飛び火した。もちろん、騒ぎとは裏腹に、先進国の現状は「散発例が発生しているだけ」の安定した状態。しかも、その散発例の多くが回復している。エボラの病態が当初の予測通りであれば、先進国で次々と感染者が報告されることはない。早期発見・早期治療のストラテジーが効を奏し、アフリカ大陸の外でのアウトブレイクは阻止できる可能性も高い。とはいえ、グローバル化の中で、古典的な水際対策や鎖国政策が現実的ではない今、日本でも、あらゆるシナリオを想定したエボラ患者受け入れ態勢づくりが急がれる。

【編集部注】2段落目「リベリア、シエラレオネ、ギニアとの往来を禁止すべきとの司法筋の要求」とありましたが、正しくは議会筋でした。訂正の上お詫びいたします。(2014年10月21日12:21)

エボラ特集
第1弾:
日本上陸も秒読み!? エボラウイルス 米国人看護師感染の意味
第2弾:
エボラ出血熱・パンデミックへの道  先進国はアウトブレイクを阻止できるか

  
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「【緊急特集】エボラ出血熱」

著者

村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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