この熱き人々

2014年11月18日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

山形県・鶴岡の小さなレストランから庄内の豊かな食の魅力を全国に発信する。最小限の塩とオイルで素材の個性を最大限に引き出す料理は、一皿に凝縮された季節そのもののようだ。

 6月から「おいしい庄内空港」という愛称になった庄内空港から、バスで鶴岡駅へ。駅前からタクシーでさらに約15分。酒田市から鶴岡市を通り山形市までをつなぐ国道112号線の道路沿いに、蔦(つた)が絡まる古い洋館風の建物が見えてきた。そこが奥田政行シェフが14年前にオープンさせたアル・ケッチァーノ。イタリア語風の店名も、庄内弁の「(おいしいものが)あるよ」という意味の「あるけっちゃのぅ」だという。どこまでも田畑が続く中、ポツンと現れた店の前には、ランチタイムを過ぎているのにまだ車が止まっている。ナンバープレートを見ると、横浜、福島、土浦、宮城……。

 ランチとディナーの間のアイドルタイム、やっと奥田が現われた。と思ったら、「じゃ、行きましょうか」と入口のドアに向かい、
「見せたいものがあるんですよ」とハンドルを握る。えっ? どこに行くんだ? と思いつつ、あわてて車に乗り込む。走ること約10分。巨大なビニールハウスが目の前に。

 「ここは、植物の博物館です。日本中の在来植物150種類を育てています。この隣に全国の野菜が食べられる実験レストランを作ろうと、今、準備中なんです。ランチだけで、ちょっと小高い場所だからヒル・ケッチァーノかな(笑)」

 奈良の大和太ねぎ、京都の浅黄(あさぎ)九条ねぎ、茨城の赤ひげねぎ、群馬の石倉根深(いしくらねぶか)一本ねぎ……と、まるで宝物を自慢するかのようにさまざまな野菜の説明をしてくれると再び車に。次に向かうのは井上馨(かおる)さんの農場だという。「お、シェフ。帰ってたのか」。まるで実家に戻った息子を迎えるような笑顔に、ふたりの関係が見える。畑の一画にハウスがあり、真っ赤なトマトや緑の野菜が元気に育っている。

 「ここは井上さんが作ってくれているアル・ケッチァーノの専用畑。いろいろな生産者の作物ごとに専用畑があって、その日一番おいしく食べられる野菜を勝手に採っていっていいの」

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