2024年4月17日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年11月14日

 それに対して、在日中国大使館は12日、「厳重な関心と強い不満を表す」とする報道官談話を発表した。しかしここで注目すべきなのは、彼らはさすがに、「日本が合意に違反した、合意を反古にした」とするような批判はしていないことだ。それもまた、合意文書には「領土問題」が含まれていないことの証拠なのである。

 このように、日中間の合意文書において、日本政府が中国に譲歩して領有権問題の存在を認めていないことは火を見るより明らかである。

何としてもAPECを成功させたかった習近平

 しかし、日本が中国に一切譲歩していないにもかかわらず、中国はなぜ日本との首脳会談に応じたのか、あるいは応じざるを得なかったのだろうか。

 その理由の一つは、10月23日に本コラム掲載の拙稿「中華思想に基づく習近平の上から目線外交」で論じているように、APECという国際会議の大舞台を利用して、「懐の深い中華皇帝」を演じたい習主席はやはり、アジアの主要国家である日本の総理大臣が「拝謁」してくるような場面を必要としていることにある。

 実はこのような思想面の理由以外に、あるいはそれ以上に、現実の国際政治においても、この2年間アジア外交において相当追い詰められている習主席と中国には、安倍首相との首脳会談に応じざるを得ない切実な理由があった。

 2012年11月に政権発足以来2年間、習主席はある意味ではずっと、安倍政権との対抗路線をとってきたことは周知の通りである。中国が日本との首脳会談を頑なに拒否する一方、国内外においては「安倍叩き」を進め、「極右分子・危険な軍国主義者」などと激しい表現で批判してきた。そして尖閣周辺の海域と空域では日本に対する挑発行為をエスカレートさせている。

 一方の安倍首相はその間、中国包囲網の構築を目指すアジア外交を精力的に展開した。日米同盟を強化した上、東南アジア諸国との連携を進め、あらゆる国際会議の場を借りて「力の支配」を企む中国に対する批判と牽制を行った。

 その結果、アジアで孤立を深めたのは中国の方であった。一時はベトナムとフィリピンは反中国の急先鋒となってしまい、ASEAN諸国の大半も安倍首相の中国批判に同調する方へ傾いた。気がつけば、習主席のアジア外交はすでに袋小路に入っていた。

 そこで習主席は何とか劣勢を挽回すべく外交を立て直そうとしていたところ、中国が議長国を務める今回のAPECは最大のチャンスとなった。中国は着々と動き出した。まずはベトナムとの対立を緩和させ、フィリピンとの領土紛争も一時的に休戦させた。経済援助を手段に一部のアジア国を手なづけた。こうして準備万端の状態で、習主席はAPECの大舞台に立った。 


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