2024年4月18日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年11月14日

 だから中国は結局、安倍首相を「野放し」にするようことは出来なかった。そのためにも、習主席は最低限、安倍首相との首脳会談に応じる以外にない。おそらく会議開催の前から、習主席はすでにその腹を決めたのであろう。

 もちろんそれでも簡単に折れたくはない。会議開催直前のギリギリまで、中国は「領土問題の存在を認める」、「靖国は参拝しない」という2つの条件を日本側に突き出したままであった。

 しかし「頑迷な」安倍首相は最後までそれを拒否した。窮地に立たされたのは習主席の方である。そしてAPEC会議開催の3日前、日中間でようやく4項目からなる前述の「合意文書」が交わされた。もちろん先ほど詳しく吟味したように、そこには「靖国」の文字も入っていないし、日本が認めたとされる「異なる見解」は「領土問題」を指していないことは一目瞭然であった。結局中国は、日本側に突き出した2つの「条件」を自ら引き下げて首脳会談に応じたと言える。

 おそらくこのような経緯を強く意識しているからこそ、安倍首相との会談の冒頭、習主席は強ばった表情で尊大な態度を取ったのであろう。自らの悔しさを覆い隠すためにも、条件を引き下げたことを国民の目からごまかすためにも、彼はわざとこのような態度をとって虚勢を張るしかなかった。その瞬間、習主席は文字通り敗者となった。

主導権を握るのは日本

 習主席にとって問題はむしろこれからである。「靖国不参拝」を約束しなかった安倍首相はいつでも参拝できるが、首脳会談に踏み切った習主席は、参拝されたら大変なことになるのだ。そうすると今後、安倍首相に気を遣わなければならないのは習主席の方だ。安倍首相を怒らせるようなことはそう簡単に出来なくなる。つまり、首脳会談後の日中関係の主導権を握るのは結局日本と安倍首相の方である。

 余談であるが、実は首脳会談が終わってから3日後の11月13日、APEC会議の以前から日本の小笠原諸島周辺の海域で赤サンゴを密漁していた中国の漁船団に対して、中国当局が突如呼び戻し始めたことが、日本メディアで報道された。どうやら、習主席に対する「安倍効果」はその威力をすでに発揮し始めているようである。

[特集]日中首脳会談

  
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