この熱き人々

2014年12月18日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

社会を騒がせた現実の事件をモチーフに、過激な作品を次々と世に送り出してきた。隠れていたものを掘り返し、嫌われてもとことん描き尽くすのは、そこに真実があると確信しているからだ。

 園子温(そのしおん)監督作品は、いつも観る者の度胆を抜く。同じ方向からの驚愕なら慣れることも構えることもできるが、毎回想像もしない方向から足払いをかけられるので油断も隙もない。唯一、想定できることは、帽子と帽子からあふれる髪と黒縁のメガネ。これまで見た写真がすべてそのスタイルだった。だからそういうイメージで心の準備をしていたところ……現われた人の頭に帽子がない!  髪が短い!  眼鏡も違う!  間違いなく園子温のはずなのに、視覚がそう認識してくれずに、「誰だ、この人は?」というレベルでいきなりたじろぐ。

 「次回作『新宿スワン』の撮影中に、沢尻エリカに持っていかれてしまって帽子がなくなりました。朝、爆発している髪を帽子で押さえて飛び出す。そういう事情で25年間ずっと帽子をかぶってきましたからねえ。どうしよう、恥ずかしいって思ったけど、撮影中で買いに行く暇もなくて。そのうちどうでもよくなってきて、帽子から解放されました。沢尻が持っていかなかったら死ぬまでかぶっていたかも」

 25年間、なぜかそこだけ安心安定の園子温だった見た目も壊してしまったのか……一瞬足場が消えた心もとなさを感じたが、不思議にいっそすっきりするような気分も湧いてくる。2014年秋に公開された最新作「TOKYO TRIBE」も「何なんだよこの映画!」という映画の常識が飛んでいくような衝撃だったのだから。それを思えば何のこれしきなのである。

 井上三太の原作漫画「TOKYO TRIBE」は1990年代が舞台。当時、小室哲也が席巻する日本で芽生えたマイノリティーなヒップホップとストリートカルチャーは、全体の中に取り込まれない個と個の痛いぶつかり合いの世界。今、再び全体の中に個々が包み込まれようとする流れの中、あの得体の知れない熱気を描こうとしたのか……と普通は思う。

 「ストリートカルチャーとかヒップホップとか全然興味なかったんです。でも、持ち込まれた企画はなるべく受け入れたい。だってもったいないでしょ。自分のやりたいことだけやってても発見がない。広がりが生まれない。『TOKYO TRIBE』は思いきり人の胸を借りました。『俺は!』とか『俺が!』って気持ちは自分の中に全くないんです。映画にとってよかれと思うことしかやらない。自分という軸で全部まとめると小さく収まっちゃう。自分が納得できる自分って小さいと思うからね」

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