2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年1月20日

 中国の台頭がウィン=ウィンであって欲しいのは中国だけではない。周辺諸国や米国にとっても、今の世界秩序の中で満足する、強い、繁栄する中国の方が、貧しく、弱い、怒れる中国よりも望ましい。しかし、領土紛争等、ある種の問題については双方が勝者になるのは不可能だ。何よりも、中国の地域的主導権獲得の願望は、西太平洋における米国の制海権への挑戦になる、と報じています。

出典:‘The world is Xi’s oyster’(Economist, December 6-12, 2014)
http://www.economist.com/news/china/21635516-confident-chinese-leader-sets-out-his-foreign-policy-store-it-not-wholly-comforting-world

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 2014年11月末に、中国の習近平総書記は、中央外事工作会議において重要講話を行いました。上記は、それについての論評です。

 鄧小平の政策指針であった能力を隠し、主導的役割は避けるという方針は、はっきりと過去のものになりました。大国としての外交を行うと言っているのでしょう。そして、この外交は、「中国の特色、中国の風格、中国の気概」を示し、中国の「発展の道、社会制度、文化伝統、価値観」を堅持するものとしています。「対話と協議を通じて平和的に国家間の争いを解決」すると述べる一方、「領土主権と海洋権益の断固たる擁護、国家の統一の擁護」などを主張しています。

 強大な中国は、諸国とお互いが利益を得られる関係を築けると述べていますが、諸国はその言葉だけで安心することはできません。エコノミスト誌が言うとおりです。

 ウィン・ウィン関係、戦略的互恵関係というのは経済関係にはよくあてはまることですが、領土紛争はゼロ・サム・ゲームで、ウィン・ウィンにも、互恵にもなりようがありません。安全保障上の問題の多くもそうです。スローガンで実態の認識を曇らせてはいけません。

 習近平の重要講話、その後の外交行動には、既存秩序への挑戦の意図が垣間見られます。「国際秩序をめぐる競争の長期化」などの言葉がその1例です。「今の世界秩序で満足する、強い繁栄する中国のほうが、貧しく、弱い、怒れる中国よりも望ましい」とエコノミスト誌は言っていますし、こういう言い方は頻繁になされます。しかし、中国は、今の世界秩序には満足していない兆候があり、このような言明を頻繁にすることにはあまり賛成できません。

 中国の台頭は事実として受け止めるべきですが、歓迎するかどうかは中国がその力をどう使うかによります。

  
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