2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年1月23日

 社説で取り上げられている、12月7日に中国が発表した公式文書は、(1)フィリピンの問題提起は領土主権にかかわることで、中国に応訴義務があるとは言えない、(2)中国は2006年に境界画定紛争などを強制管轄の例外として条約に従って通知している、(3)フィリピンが交渉を尽くさず仲裁にいきなり訴えたことは国際法違反である、などと論じています。

 上記社説は「スカボロー礁周辺EEZでの漁業権の問題は領土主権問題ではない」と言っていますが、「スカボロー周辺の漁業権の問題も領土主権問題から派生する問題である」との中国側主張にも一理あります。仲裁裁判所が管轄権についてどういう判断をするかは予断を許さず、中国寄りになるか、フィリピン寄りになるかは五分五分と思います。上記社説は、管轄権についての中国側主張を「取るに足らない」ものと扱っていますが、それは、国際法の解釈としては必ずしも正しいものではありません。

 今回の中国のペーパーは、仲裁についての強制管轄の有無に焦点を合わせたもので、9点線やその他の南シナ海での中国の行動を正当化する議論はほとんど含まれていません。中国は9点線で囲まれた地域が領海というのか、経済的水域というのか、はっきりさせていません。「争いのない主権」を持つとか、「歴史的権利」があるなどといわれても、今の海洋法を含む国際法上の概念にうまくあてはまりません。「曖昧なことを言いつつ、現場でプレゼンスを拡大する中国には、もっと厳しく対応すべきである」との社説の結論は、その通りでしょう。中国は、尖閣、中印国境などで領土主張をしていますが、この9点線主張は最も弱い根拠しかない主張と言えます。頻繁に諸事例をとらえ、対抗していくのがよいでしょう。9点線問題は中国の拡張主義を如実に現しているケースであり、ここでは関係各国と協力し、知恵を絞り、封じ込める必要があります。

  
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