2024年4月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年1月29日

 米国が北朝鮮のソニーに対するサイバー攻撃やテロの脅しに毅然とした対抗措置をとらなければ、米国に対する攻撃や脅しはより頻繁に行われることになるだろう、と述べています。

出典:David Inserra & Bruce Klingner,‘Washington Must Respond to North Korean Cyber Bullying and Threats of Terror’(Heritage Foundation, December 22, 2014)
http://www.heritage.org/research/reports/2014/12/washington-must-respond-to-north-korean-cyber-bullying-and-threats-of-terror

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 本件に関しては、オバマ大統領は、北朝鮮に対して追加制裁措置をとっています。1月2日の発表によれば、北朝鮮の軍・諜報機関、武器取引企業を含む企業、個人の、米国の金融システムへのアクセスを阻止するとのことです。

 本件の本質は、サイバー攻撃に対する抑止の問題です。本来、抑止とは、相手の攻撃を未然に防ぐものです。本件は、すでに行われたサイバー攻撃に対する対抗措置であり、北朝鮮に対する懲罰ですが、それにより、北朝鮮による再攻撃を未然に防ごうとするものです。また、北朝鮮に対する対抗措置が、論説の言うように他の潜在的な対米サイバー攻撃者を思いとどまらせる効果を持つことが期待されています。これは、第三国に対する抑止に当たります。

 ただ、サイバー攻撃の抑止は核の抑止と異なり、どれほどの効果があるのか定かでありません。核の抑止の場合は、攻撃されれば相手に耐え難い打撃を与えると警告することにより、核攻撃を思いとどまらせようとするものですが、サイバー攻撃の打撃の程度はさまざまであり、今回ソニーが受けた攻撃は、耐え難い打撃には程遠いものです。米国がとる対抗措置が、サイバー攻撃かどうかは別として、ソニーが受けたものと同程度の打撃を考えているのであれば、果たして北朝鮮、あるいは他の潜在的サイバー攻撃国を思いとどまらせることができるか疑問です。また、ソニーが受けた打撃を上回る措置を考えているのであれば、北朝鮮が再報復し、事態がエスカレートする恐れがあります。しかし、そうだからといって、米国が何も対抗措置を取らなければ、米国は甘く見られ、米国に対するサイバー攻撃は増えるでしょう。したがって、米国は何らかの対抗措置を取らざるを得ず、オバマ政権も現に追加制裁を発表したのですが、論説の言うような効果は、あまり期待できません。

 サイバー攻撃は新しいタイプの戦闘行為です。これにどう対処するかの戦略的考察は始まったばかりであり、当面、戦略、戦術、それに法規範の面で模索が続くことになるでしょう。

  
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