オトナの教養 週末の一冊

2015年2月6日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 実際に自分が乗ったタクシーで、東京の日本橋の交差点がわからない運転手がいた。さらに霞が関ビルの場所がわからない人や、銀座のソニービルの場所がわからない人もいた。最近でこそ、東京都心では多くの新しいビルが建ち、新しい名前も氾濫しているので、ビルの名前だけでは場所がわかりにくいこともあるだろう。しかし、昔から東京を代表する「ランドマーク」がわからないのは信じられなかった。本書にも紹介されているが、運転手になるための「地理試験」をパスしているにもかかわらずである。こちらが驚いた雰囲気を示すと、多くの場合「新人ですので」と弁解する人が多く、実際に言うことはないが「あなたはプロ意識がないのですか」と言いたくなり、非常に残念な思いをする。

 自分も東京に長く住んでいるが、土地鑑がないエリアも多くあるので、運転手さんも細かい地理を頭に入れるのは大変だろうとは思う。まして子供の頃から東京に住んでいない地方の出身者が東京の地理を覚えるのは難しいはずだ。だが、それでも代表的なランドマークすら把握していないで仕事ができるのかな、とは思う。

 ただ、本書に詳述されているように、不景気の影響や、めまぐるしく変わる規制の内容、競争の激化などで、売り上げがなかなか上がりにくい状況にあるのは確かで、タクシー業界の置かれた状況の厳しさも良くわかる。

一段のサービス向上が求められるだろう

 一方で、お客さんの争奪戦を繰り広げる結果、無理な運転が生まれ、事故が多発する現実があることを知ると、輸送業務で最も大事なはずの「安全」や「安心」がおろそかにされているのではないかと思ってしまうのは筆者だけではないだろう。

 特に東京で、体の不自由なお年寄りや小さな子供を抱えたお母さん、大きな荷物を抱えたお客などにこまやかなサービスを提供できているのかどうか、著者は疑問を呈しているが、そうした着眼にもうなずかされる。中には親切な運転手さんがいるのは確かで、自分もお世話になったことはあるが、その数が多いかと問われれば、決して十分ではない。

 ちゃんと正しいメーターがついていて、ぼったくられない。乗っていて安心という日本のタクシーは国際的にレベルが高いが、著者の指摘するようにまだまだ課題は多い。外国からの訪日客は着実に増えており、2020年の東京五輪も控えて、今後、内外の利用者が気持ちよくタクシーを使えるよう一段のサービス向上が課題になるだろう。タクシーにまつわる実に様々なことを教えてくれる渾身の作品である。

  
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