2024年4月18日(木)

東大教授 浜野保樹が語るメディアの革命

2009年8月7日

 しかし、もうあとはない。廃刊した内外の新聞紙を書き連ねれば、それだけでこの画面はいっぱいになるだろう。私は結構本を購入する方で、英語で言うところのbookishだが、それでも気がつけば、もう何年も辞書を購入していない。電子辞書に完全に置き換わってしまった。

ヴィジョンなきは未来なし

 複製を可能にした活版印刷の発明が中世という時代に幕を引き、放送などのマスメディアが大量生産、大量消費、大量廃棄の近代社会を形成したように、今回の大変革も社会そのものを変えてしまうことになるだろう。いまはまだその幕開けの混乱期にあるが、これまでと異なるのは、一部の地域で起こったことが徐々に世界に拡散していくのではなく、変化が国や地域をまたいで相乗的に拡大し、一挙に各地へ到達するということだ。今回のリーマン・ショックでも、そういった瞬く間に起きた過程を誰もが、ただ傍観するのみであった。

 歴史を振り返っても、メディア技術は発明者の思惑通り使われたためしはなく、最終的には大きなヴィジョンに引き寄せられるようにして収束する。媒介するための手段でなく、われわれは何をしたいのか、どのようになりたいのかということからしか新しいヴィジョンには到達しない。当然のことだが、欲しいのはCDではなく音楽なのだ。そして本物を見聞きしたいのだ。

 


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