WEDGE REPORT

2015年2月20日

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林えり子 (はやし・えりこ)

作家

著書に『清朝十四王女 川島芳子の生涯』(ウェッジ文庫)や『暮しの昭和誌』(海竜社)、『江戸・東京通物語』(ソフトバンククリエイティブ)等がある。

迷えば師の言葉が誘ってくれた
継続の末、辿り着いた茶の道

 板橋区で祖父の代からの製本業を営む家の子、水指の創意となった紙の束を見て育った。誰一人として「お茶なんて関係ない」家の長男なのだ。素直に育った子は、家業を継ぐつもり。でも、「やっぱ手に職」とか「就職して会社勤めもしたい」とか思い巡らせ、都立工芸高校へ入学した。

 新入生となった15歳の春である。茶道のさの字も知らない少年の気を惹いたのが新入生対象の部活オリエンテーションで目にした茶道部が掲げる「抹茶の栄養価について」。この年で健康に関心があったとはほほえましいが、中学時代から陸上部に所属、食養に敏感だったのだ。

茶を点てている時とは違った柔和な表情

 「カテキン効果は凄いなと思いましたが、入部を決めたのは茶道部講師の、いまも師匠の松本宗紅先生が、将来をものづくりで生きたいのなら、日本の総合芸術である茶の湯を勉強しておけば、って言われて……」

 人の進路って、こんなふうに決まってゆくのだろうけど、高校生で生涯の師匠に巡り会うなんて、ほんと、ラッキーボーイ。

 高校生活では勉強好きなので学業も常にトップクラスの申し分のなさ。それゆえ、広告写真のアートディレクターを目指しての進路「日本大学藝術学部写真学科」に見事推薦入学する。

 しかし岡田家の教育方針は、

 「18歳までは親の義務として学費は出すが、その後は自力だ。で、授業料は育英資金、でも写真の材料費がかかる。アルバイトは必須です」

 元より勉強好きだから、手抜きせずに頑張る。

 松本先生の教室に通う時間的余裕がなくなり、

 「やめたい、って言いましたら先生が、稽古にいらしてるあの方は大企業のトップ、あちらは会社役員よ、皆さんあなたより忙しい。しかしお稽古は休まない。時間はつくりだすもの」

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