オトナの教養 週末の一冊

2015年2月27日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 ポールはその時こう答えてくれた。

 「君も良く知っているように、これはビートルズだけの話でなく、iTunesだけの話でもない。EMIや様々な出版関係の人々が絡む話なんだ。みんなそれぞれディールしないといけないんだよ」

 いろんなことがあって大変なんだよ、と言いたげな表情で、遠くを見るような目で話していた姿が印象的だった。様々な権利や金銭の問題で実際大変なんだろうなと想像はついたが、結局、ビートルズが公式に発表した全213曲がインターネットで配信されるのは、それから3年後の2010年の11月まで待たなければならなかった。

「4人の天才が生んだ、金ですら壊せないもの」

 ロックバンドに限らず、才気あふれる30歳前後の若者が同じ枠のなかにとじこもって、みんなで同じ方向をずっと見続けるのは難しいはずだ。そこに結婚などの人生の転機や、巨額のマネーがやりとりされるビジネスがからめばなおさらだろう。本書ではジョンとポールの間にあったとされるリーダーシップ争いや、辣腕だが強欲な実業家アラン・クラインの登場などがビートルズとそのビジネスに及ぼした影響について詳述されている。

 ただビートルズが大変だったのは、自分たちの作り出した名声や影響力に加えて、生み出したお金の大きさにつぶされそうになっていたことなのかもしれない。これを「有名税」というのは簡単だが、生身の人間が受容するのは重すぎたのだろう。

 あんなに成功しながら、破産一歩手前みたいな状態に陥っていたメンバーがいたことも驚きだ。解散後になかなかレコード契約がとれなかったり、思うような作品を発表できずに悩む様子など、かつてビートルズであったことの重圧を感じているような姿は痛々しい感じもする。

 あとからわかるいろんな事情があるにせよ、確かなのはビートルズが世に送り出した曲の多くが世界中の人の心をとらえ、様々な影響を与えたという事実だ。いまや三世代にわたって歌いつがれている。筆者がロンドンに生活していた時、英語を覚えたての娘と一緒に家族でHello Goodbyeなどの曲を一緒に歌った時の感動は今も忘れない。

 本書の最後にこうある。

 〈「ビートルズの魂はアップル・コア社の重役用会議室や、四人の億万長者の銀行口座ではなく、彼らの曲が持つ本能的で自然な優雅さの中にこそ存在する。四人の天才が合わさると、金ですら壊せないものが生まれたのだ。〉」

 まさにその通りだと思う。だからこそ自分も含め世界中の多くの人々がいまだにビートルズの魅力から逃れられないのだ。

  
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