都会に根を張る一店舗主義

2015年3月31日

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 民俗学者の結城登美雄さんから、久々に走り書きのファックスが届いた。結城先生は、東北600以上の集落を巡り、多くの地域おこしにも携わってきた方だ。ファックスには、こう書かれていた。

 「本日は鳴子の米が10年をむかえ、同時におむすび権米衛が「ゆきぬすび」だけを使った店をオープンさせるとのこと。60キロ(一俵)24000円で、15トンも買ってくれました」

 鳴子は、東北新幹線の古川駅から在来線で50分。紅葉の美しさだけでなく、湯量と泉質のヴァリエーションの豊かさにおいて、南の別府温泉と双璧をなす宮城県大崎市の温泉町である。仙台市の水源にあたる地域で、山形県と新潟県の県境にも近い。

 そんな中山間地だけに農家の田んぼの平均面積は10アールほど。大規模化に主眼がおかれた平成の農政改革(2007年)では、補助金の対象になる農家は620軒のうち5軒だけだった。そんな地域を30年も見守ってきた結城先生は、10年前、この寒冷地でもおいしく作れる新しい品種を栽培し、消費者に年間予約してもらい、「農家が翌年もがんばろうと思える値段で」前払いしてもらおうというしくみを提案した。この新品種が、後に「ゆきむすび」と命名された。事務局の役場の阿部司さんがこれを支え、『みやま』、『大沼旅館』といった地元15の温泉旅館も、米を買い支えることを確約。それでも当初、手を上げた農家は、「鳴子の米プロジェクト」の現会長、上野建夫さん以下3名。その頃、阿部さんたちに案内してもらった農家は、鳴子の市街地から、さらに4キロ、山道を登った鬼首という開拓集落。高冷地の小さな田で、一歩踏み出そうという農家の意気込みに打たれた。

 それから10年、鳴子の米を買い支える人は今や900人に増え、仙台の弁当屋も賛同。この鳴子の米プロジェクトを題材としたNHKドラマ『お米のなみだ』(脚本は阿部美佳さん)も話題となり、追い風となった。そのうち農家も28軒に増え、ついに今年は、都心の神田神保町に鳴子の米だけを提供する『おむすび権米衛』が誕生したというのだ。

 昨年、米価が暴落、TPP交渉に危機感を深める国内の米農家には、二重の打撃だった。通常の米農家の取り分は、一俵で8000円ほど。年間の諸経費を引くとまったく暮らしが成り立たない価格である。そんな中で、24000円で15トンもの申し入れは、鳴子の農家にも、結城先生にも朗報以外の何ものでもなかった。

よく知られたチェーン店ながら、
日本でただ一つの店舗

 ところで、この連載の隠れテーマは一店舗主義である。世界中、チェーン店ばかりが増えれば、通りの風景も退屈になるし、素材だって、どうしても安い外材が中心になる……と私はすねていた。それが今回は、都内に42店舗を展開するチェーンのおにぎり屋。

『おむすび権米衛』アパホテル神田神保町駅東店

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