エネルギー問題を考える

2015年3月20日

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杉山大志 (すぎやま・たいし)

IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者

1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入所。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者を経て、現職。(一財)電力中央研究所上席研究員。

 40%という省エネ比率を目指して、太陽光発電よりも高価な対策を実施するとなると、そのコストが莫大になることが懸念される。慶応大学野村浩二氏は、電力価格が倍増し、2030年までに累積で100兆円の国民負担になる可能性を示唆している(日経新聞経済教室、3月19日)。そうではなく、もっと安く上がるはずだとするならば、小委は、40%の省エネ比率が、どのようなコストで実現できるのか、分り易く示す責任がある。

 このような計算への反論として、「経済成長率が1.7%というのは掛け声に過ぎず、実際には1.0%ぐらいになるのではないか」「経済がサービス化すれば、経済成長率が1.7%でも、電力需要の伸び率は1.0%ぐらいではないか」といった意見もあろう。だが電力需要の伸び率が仮に1.0%であるとしても、2030年の電力需要は1兆1157億kWhとなる。先程と同じ計算をすれば、小委員会試算の省エネ比率は24%となる。数字はやや小さくなるが、問題が巨大であることには変わりがない。経済成長を全くしないとか、産業が空洞化するというなら話は別になるが、それは小委で想定している経済の姿ではないだろう。

 さて実際には、巨額なコストが発生する以前に、大規模な省エネは実施段階で頓挫すると思われる。国民の負担が大きいことが明らかになるにつれて、政策への支持がなくなっていくと予想されるからである。

 以下、想像を巡らせてシミュレーションをしてみよう。省エネ比率がこのまま見直されなければ、経済が成長するにつれて、電力需要は伸びて、やがてCO2目標が達成できないことが明らかになる。すると、CO2を抑制するために、何等かの政策が導入される。だが何年か経つと、そのコストが膨大なことが判明して見直される。そのようなことが繰り返されるのではないか。

 このような予言をするのは、それがまさに再エネのFIT制度で起きているからである。省エネの文脈では、例えば、排出量取引制度が導入されるかもしれない。だが、やがてそれが電力価格高騰を引き起こすことがはっきりしてくると、制度が見直されて、結局のところ、CO2の削減に結びつかないものになるだろう(なお、欧州の排出量取引制度では、排出権価格は暴落して、CO2の削減に繋がっていない)。

 あるいは、省エネ補助金が増大するが、これも、先の住宅省エネ改修の例で見たように、負担が大きい割にCO2削減の効果が限られることがやがて明白になり、予算が削減されて、行き詰まるだろう。結局、混乱をもたらした挙げ句、CO2は減らず、予算は無駄遣いされることになる。

 では小委は、なぜこのような、無理な省エネ見通しをしようとするのか? それは、CO2の総量を抑え込んだ絵を無理やりに描こうとするためである。実はこれは初めてのことでもない。京都議定書目標達成計画でも、特に家庭・業務部門を中心に、過大な省エネ見通しがあり、失敗した。国として数値目標を達成できたのは、リーマンショックがあったり、CDMで排出権を購入する等で、帳尻が合っただけのことだ(詳しくはこちら)。しかし、今後も同じような帳尻合わせが出来るという保障は全く無い。小委は過去の失敗に学ぶべきだが、そうしないで、また同じことをしようとしている。

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