2024年4月25日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2015年3月31日

 第1次世界大戦は、セルビア独立を求める19歳のテロリスト、ガヴリロ・プリンツィプがオーストリア皇太子を暗殺したことから起こった。テロリストを処刑し、関係者を処罰すれば良いだけだと誰でも思うだろうが(実際、処罰されている)、それが全ヨーロッパを巻き込む大戦争になってしまった。

 一方、現在ウクライナの戦死者は5000人以上に上るという。しかし、だからと言って、全世界を巻き込む大戦争になるとは誰も思わない。大戦争の損害があまりにも大きいからである。もちろん、西欧とアメリカが戦争の損害を恐れているとロシアが見切っているからこそ、親ロシア派が限定的勝利を収めているのだが、だからと言ってロシアがウクライナ中央部にある首都キエフまで攻め込むことはないだろう。第2の問題は、解決はされていないが、マシになっていることになる。

 旧約聖書やコーランが書かれたのは、人々が部族に分かれ、お互いに争っていた時代だった。それぞれの部族が、自分からは争う気がなくても、敵の部族はいつ攻撃してくるか分からない。攻撃や略奪を受けたとき、それに対抗するのは、復讐しかない。復讐を恐れるなら、相手を皆殺しにすることが解決策となる。

日本にも登場したリヴァイアサン

 リヴァイアサンは日本でも誕生した。戦国の世の中から小さな領主を糾合した戦国大名が生まれ、その中から最強の大名が天下を統一することになる。こうして最後に成立した徳川幕府は、領主間の争いを止めさせ、農民を課税のために保護する対象と考えるようになった。

 そのことをもっとも自覚的に行ったのは犬将軍と言われた徳川綱吉だったという。大名の力を抑え、中央集権化を進めるとともに、農民を保護しようとした。武士は、その支配下の人間に対して絶対的な権力、些細な無礼で討ち殺す権限を持っていたが、それを制限しようとした。犬を保護しようとした生類憐みの令で、庶民が苦しんだことはなく、それは武士の残虐さを抑制しようとしたものだったという。そもそも、生類には人間が入っているのだから当然で、捨て子の養育を求めることがその主眼だったというのだ(ベアトリス・ボダルト=ベイリー『犬将軍─綱吉は名君か暴君か』柏書房、2015年)。

 考えてみれば、綱吉の治世は元禄時代で、浄瑠璃、歌舞伎、琳派など、日本が誇る伝統文化が花開いた時代だ。庶民が苦しんで、町人文化が栄えるはずはない。綱吉が貶められたのは、彼が大名や武士の特権を奪い、中央集権国家を作ろうとしたからだった。庶民は綱吉の治世を非難する何の資料も残しておらず、残したのは武士階級だけだったというのである。


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