2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年3月30日

 中国側が新型の大国関係の概念を使いたいと真剣に考えるのであれば、核心的利益のような本質的に解決困難で慎重な取り扱いを要する分野に関する議論を強いることなく、同概念が尊重されるよう模索するのが賢明である。中国は、核心的利益を主張し続ければ、習の提案を米国に却下されるリスクを冒すことになる。しかし、中国側が核心的利益への言及を削除するならば、米国は、新型の大国関係の概念に基づいて中国に関与することを排除すべきではない、と論じています。

出典:Stephen Hadley&Paul Haenle,‘The Catch-22 in U.S.-Chinese Relations’(Foreign Affairs, February 22, 2015)
http://www.foreignaffairs.com/articles/143167/stephen-hadley-and-paul-haenle/the-catch-22-in-us-chinese-relations

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 ハドレーは、ブッシュ政権2期目の安全保障問題担当補佐官、ポール・ヘンリーは、2007年6月から2009年6月までNSCの中国・台湾・モンゴル担当部長を務め、現在は、北京の清華大学に拠点を置くシンクタンク、カーネギー清華グローバル政策センターの所長です。

 論説は、中国が「核心的利益」への言及を削除するならば、米国は「新型の大国関係」についての中国側提案を受け入れても良い、と述べています。このような考え方は「新型の大国関係」や「核心的利益」という曖昧な概念に関する解釈権を中国に一方的に与えるものであり、賛同し難いものです。 

 そもそも、「新型の大国関係」なる抽象的概念が目指すものは、米国との「対等」な関係であり、自らの「勢力範囲」を確保し、いずれ中国の自称する「核心的利益」を認めさせようとするでしょう。

 中国が「核心的利益」として挙げてきた台湾、チベット、新疆ウイグルに加え、近年では、尖閣を含む東シナ海、南シナ海をこれに加えようとする傾向がますます強まっており、論説がいう「もし中国が核心的利益への言及を削除すれば」という仮定は極めて非現実的です。

 何よりも、「新型の大国関係」という言葉の解釈権を中国に与えれば、中国としては、台湾防衛の根拠となってきた米国内法「台湾関係法」を廃止すべきである、と主張するようになるものと考えられます。

 また、中国が「太平洋は米中両国を含むだけの十分な広さを持つ」と述べて「新型の大国関係」を説明する時、中国が米国を西太平洋から追い出す意図は明確であり、日米安保体制、日本独自の防衛力の存在などは軽視ないし無視されていると見なければなりません。本件議論が日本にとっても他人事ではない所以です。

 米中関係は伝統的な大国間のパワー・ポリティクスと見るべきであり、ことさら「新型」と見る必要はありません。中国側の土俵に乗って言葉遊びに巻き込まれるような本提案は危ういと言わざるを得ず、中国に対しては、現状を力により変更する行動、国際規範を力により変更したり一方的に解釈したりすることは容認できないと、明確に示していくべきでしょう。

  
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