この熱き人々

2015年5月5日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 60年を超える草笛の芸能生活を支えてきたのは、芸能界入りを反対していた母親だったという。専業主婦からマネジャーになって、公私ともに娘の人生に寄り添ってきた母が亡くなったのは09年。

 「専業主婦だったのにねえ。私がSKDに入ったことで母の人生も変えちゃいました。私ね、今でも親離れできてないの。見て」

 そう言うと、草笛はパンツの裾をまくり上げた。足首に黒っぽい糸が巻き付いている。

 「もう色が変わってしまったけど、赤い絹糸だったのよ。母が亡くなった日に結んだの。まだ一度も切れてない。だから母とはまだ繋がっているの」

 ミサンガのようなものか。いや、ミサンガは切れた時に願いが叶うのだが、この糸は切れては一大事ということになる。

 「だからバッグの中にいつも赤い糸を持っている。切れたらすぐ繋いじゃうんだから」

 思わず笑ってしまう。親離れしていないのではなく、心の支えの母親を決して離さないと言っているのである。

2006年から再演を重ねる「6週間のダンスレッスン」

 「もういい加減にしてよって母は言ってるかもね。でも私がこうやって頑張っているのも、母のもとに行った時に、もっといい女優に、もっといい人間になって胸を張って会いたいから。まだまだ行けないな」

 身振りを交えて、表情豊かに全力で話してくれる。男前にして、カッコいい。同時に、大先輩でありながらとってもかわいらしいと感じてしまう。80歳を超えて活躍中の人はたくさんいるが、未だその世界の中心に存在しているのはやはり稀有なこと。まだ観ていない「6週間のダンスレッスン」をぜひとも観に行きたくなった。

 「そう? じゃ私、しっかり生きてなきゃならないわね」

 怒涛の2時間半の舞台は昨年よりもさらに過酷になるのだろうが、草笛はそれをも楽しむようなお茶目な笑顔で、そう応えた。

(写真 / 岡本隆史)

草笛光子(くさぶえ・みつこ)
1933年、神奈川県生まれ。松竹音楽舞踊学校を経て、50年、松竹歌劇団に入団、歌唱力が注目され人気を集める。54年、同歌劇団を退団、以降、映画、テレビ、舞台で女優として長年にわたり活躍を続ける。

  
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◆「ひととき」2015年3月号より

 

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